セミナー「韓国新政権と日韓米関係の展望」を開催しました

丁院長(左)、深川研究主幹(右)
経団連総合政策研究所(筒井義信会長)の韓国研究プロジェクト(研究主幹=深川由起子早稲田大学政治経済学術院教授)は7月23日、韓国の代表的シンクタンクである韓国経済研究院の丁澈院長を招き、韓国経済人協会(韓経協)の後援のもと、セミナー「韓国新政権と日韓米関係の展望」をオンラインで開催しました。
前半では丁氏が韓国新政府の主要政策の方向と日韓産業協力について講演し、後半では深川研究主幹が日本側の視点に立った論点を提示したほか、丁氏と深川研究主幹による対談を行いました。概要は次のとおりです。
■大韓民国新政府の主要政策の方向と韓日産業協力(丁氏)
韓国新政府の李在明政権は、民生経済の立て直しと産業技術への注力を軸とした政策を強調している。急激な景気悪化と物価高を受け、30兆ウォン超の補正予算を編成。消費クーポンの支給や小規模事業者支援などを通じて、内需回復を最優先課題と位置付けている。緊縮財政を脱し、民生支援を積極的に進める姿勢が鮮明である。
産業技術分野では、AI(A)、バイオ(B)、カルチャー(C)、防衛(D)の「ABCD戦略」を掲げ、産業構造の高度化を図る。特にAI分野には100兆ウォン規模の投資を打ち出し、AI主席秘書官の新設など体制強化も進めている。加えて、再生可能エネルギーの拡充と地域間、産業間の送電網を強化する「エネルギー高速道路構想」や、脱原発からの政策転換もみられる。
韓経協は、こうした政策への積極的対応と並行して、韓日産業協力の強化を模索している。
「リスク」「マーケット」「ソリューション」「バリュー」の四つの「シェア」を協力の柱にしたいと考えている。
具体的には、①リスクシェア=液化天然ガス(LNG)や造船分野での日米韓連携②マーケットシェア=市場規模を補完する経済圏統合③ソリューションシェア=少子高齢化や気候危機、再エネ、水素技術の共同開発④バリューシェア=北東アジアにおける自由民主主義・市場経済といった共通価値の共有による域内平和、共同繁栄のための協力――である。
特に、未来に向けた次世代の人の交流が重要であり、双方で好感度が上がっている若者やスポーツ芸術分野で交流をさらに拡大させることが期待される。
■日本からの視点(深川研究主幹)
最近の韓国政局は、ねじれのない強力な政権基盤のもと、実用主義的な政策運営が見られる。日本側も過去のような理念対立による日韓関係の悪化を懸念する必要が薄れつつある。一方、韓国国内では保守・革新の対立に国民の疲労感が募り、成熟した市民意識が対話を促している。
日韓関係では、グローバル経済の危機や地政学リスクのなかで経済安全保障や自由貿易維持のために協力が不可避となっている。文化・観光などサービス分野で国民レベルの関係強化も進展中である。
今後、日韓はエネルギー、少子高齢化、地方活性化、人材育成など幅広い分野で協力の可能性がある一方で、価値観の違いや政治的雑音も残る。人的交流の深化によって、こうした課題解決が進むと考えている。
■対談
両氏は、日韓の産業協力において中小企業や消費財分野の市場融合が重要と強調した。文化や生活様式を背景にした商品やサービスの交流が新たなビジネス機会を創出するとともに、人的交流の深化が協力強化に寄与すると同意した。
貿易収支では、韓国の赤字が指摘される一方、両国の素材や装置の競争力を生かした協力で相互の産業競争力向上が期待される。補完関係を生かした持続的連携が日韓産業協力のカギとなる。