中国

シンポジウム「中国の産業政策と国家安全戦略」を開催しました

左上から時計回りに川島研究主幹、小嶋研究委員、山口研究委員、丁研究委員

 21世紀政策研究所の中国情勢研究プロジェクト(研究主幹=川島真東京大学大学院総合文化研究科教授)は5月22日、会員企業の参加を得て、シンポジウム「中国の産業政策と国家安全戦略」をオンラインで開催しました。シンポジウムは前半に研究委員3人が講演。後半に、川島研究主幹がモデレーターとなって研究委員とパネルディスカッションを行いました。概要は次のとおりです。


■「新質生産力」からみた中国産業政策の方向性(丁可ジェトロ・アジア経済研究所主任研究員)

 中国は「新質生産力」という概念を掲げ、最先端のハイテク産業を育成する政策を打ち出した。具体的には、九つの新興産業と八つの未来産業の重点的な育成である。この背景には不動産業に替わって経済発展の新たな原動力を創出したいという考えがある。リープフロッグ(かえる跳び)的な発想に基づくことが特徴であり、電気自動車(EV)がこの成功事例といえる。また、米国が目指す先端科学技術分野における国際標準化に対抗するための政策でもある。


■習近平政権の機構改革と社会統治構想~「社区」統治を中心に(小嶋華津子慶應義塾大学法学部教授)

 中国の行政区分は、上層から省、市、県、郷・鎮・街道とあり、その下が「社区」である。日本の町内会のような住民の自治組織だ。習近平政権は2023年に機構改革として、社区の管理を共産党に移管した。また、福祉の充実のために、ソーシャルワーカーを拡充し、地域を包括したケアシステムも構築している。さらに、西側諸国がNGOなどを通じて中国社会に入り込み一党支配体制を揺るがすことを阻止すべく、民間企業やNGOのなかに党組織を組成させようとしている。


■習近平政権の外交体制(山口信治防衛研究所主任研究官)

 中国の外交は、習近平政権によって大きく変容した。23年には外交部を「法にのっとって外交事務を扱う」として、他国の外務省が外交を統括する機関であることに比べ、低い地位に置いた。外交部幹部には非外交官を置き、思想教育も頻繁に行う。こうした体制をとる背景には「総合国家安全保障観」、すなわち、中国の安全保障を脅かす存在は国内のみならず国外にもあり、政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報など、あらゆる分野がその範疇であるという考えがある。


■パネルディスカッション

 川島研究主幹は、中国において構造的な変化が起こっていると強調。中国には、世界が100年に一度の変化の時であり、これを飛躍の機会と捉え、そのために国民は一致団結すべきとの論理があるとした。また習近平政権には、経済面では国家安全の強化と技術開発推進という矛盾、社会面では統治の徹底による人心との乖離、外交面では外交部の管理による外交の停滞など政策の矛盾とリスクがあると指摘した。続いて、参加者からの質問も取り上げ、議論を深めた。主な論点として、新質生産力の担い手、政権内における経済の専門家不在の影響、トップ外交増加による変化、米国大統領選挙の影響などが挙げられた。最後に川島研究主幹から、新質生産力はビジネスチャンスである一方で経済安保のリスクがあること、統治の強化は中国駐在の日本人とその家族にも影響を及ぼす問題であること、今後の中国外交は習近平国家主席や王毅外相といった首脳といかに話すかが極めて重要であることが示された。

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