4. 護送船団方式に代わる新しい金融監督体制の構築
1. 求められる検査・考査体制の充実
日本のみならず、先進各国においては経済の潤滑油機能を果たしている金融システム、決済システム保護のため、何らかの保護措置を実施している。わが国においては、これまでの間、長年にわたって護送船団方式と称される規制色の強い銀行保護政策が実施されてきた。政府では、21世紀の金融グローバル化時代にふさわしい金融の枠組みの構築を目指して護送船団方式の廃止を決定したが、その一方で、それに代わる金融システム保護の仕組みが準備されていない。それゆえ、政府に対しては現在、市場原理に叶った新たな金融システム保護の枠組みを早急に確立することが求められている。
欧米主要国などにおいては、銀行経営における自己統治、自己責任の原則を重視し、事前的な商品・行為規制はなるべく廃止する一方で、銀行監督当局による事後的な検査・考査が重視されている。わが国においても、そうした方向で銀行監督制度をスクラップ・アンド・ビルドすることが強く求められている。そして、そのためにも、銀行検査・考査人員数を例えば現行比倍増させたり、一部の検査員を銀行に常駐させるなど、事後的な検査・考査体制の充実・強化を図る必要がある。このほか、現在懸念される金融秩序の崩壊防止に際しては、個々の銀行における不良債権残高あるいは自己資本充実度についての実態把握が前提となるため、例えば本年9月末までにすべての銀行を対象として不良債権を精査することが求められよう。
2. 金融規律の確立
その一方で、不良債権問題処理に目途がつけば、日本経済に漂っている金融不安や閉塞感が払拭されるとともに信用収縮も終息し、金融システムが正常に機能することが見込まれる。そして、海外の投資家も安心して日本の銀行や企業に投資できるようになるため、株価の上昇や為替相場の円高化が見込まれる。そうしたなかで、日本経済が安定成長軌道に復するとともに国民生活も向上することが期待される。日本の金融に関しては、それを透明性の高い取引に変換することが中長期的な課題として求められているため、不良債権問題の解決とともに、金融機関に対する経営規律の向上策の実施や金融機関監督体制の見直しが併せて求められている。そして、これらの施策は、次のような経路を通じて日本経済の活性化に繋がると期待される。
- 金融界と行政当局との持たれ合いの排除、金融行政の透明化
- 経済主体ごとの自己規律と統治(コーポレート・ガバナンス)の回復
- 市場原理に則った効率的な資源配分の達成
- 金融機関による日本版ビッグバンへの対応力の向上
- 行政改革、政府の役割に関する見直しなど、日本経済の構造改革の推進
3. 金融規律の確立に向けた諸施策
銀行経営者および銀行株主における自己責任原則の徹底を図るため、以下のような施策を速やかに実施のうえ、金融規律を確立することが求められる。万が一、こうした施策が実行に移されなければ、不良債権問題が再発する可能性が否定できない。そうした事態の発生を回避するためにも、金融規律の確立が不可欠ということができる。
- 早期是正措置の発動基準を強化し、問題銀行に対しては速やかな退出を求める。
- 自己査定に基づく不良債権の早期認識・早期償却の促進を狙いとして、貸出金についても時価会計を導入のうえ延滞債権額の算定基準を明確化させる。
- これと平仄を合わせるためにも、貸出金償却に関する税法基準を廃止し、不良資産の無税償却を自由化する。
- 不良債権等に関するディスクロージャーをさらに推進し、銀行経営者の経営手腕が常に市場で問われるような体制を構築のうえ、経営者を規律づける。
- 当局に対する各種計数報告に際し虚偽の報告を行った場合の罰則および罰金を禁止的な水準にまで引き上げ、経営者におけるモラルハザードの発生を防止する。