時事解説「トランプ大統領の米国はどこへ行くのか」<2>西住祐亮研究委員
時事解説「トランプ大統領の米国はどこへ行くのか」<2>西住祐亮研究委員
経団連総研研究委員(中央大学法学部兼任講師)
西住祐亮
イスラエルへの揺るぎない支持は、長らく米国の中東政策の核となってきたが、近年では、民主党の側で変化が見られる。そして現在、同様の変化が共和党の側でも生じるのでは、との見方がにわかに注目を集めている。
周知のとおり、イスラエルへの揺るぎない支持は、米国内で広く共有されてきたものであり、歴代政権によって力強く継承されてきた。イスラエルへの支持が強いあまり、米国の行動が国際社会のなかで突出したものと映ることもしばしばであった(パレスチナ問題など)。
こうした大きな傾向は今でも変わっていないが、民主党では変化も目立つようになっている。党内左派や若者を中心にイスラエルへの批判姿勢が強まり、2023年10月に勃発したイスラエル・ハマス戦争は、こうした変化を加速させた。イスラエル批判の広がりは、党内に「分断」ともいえる状況をもたらし、24年の選挙でも民主党を苦しめることになった。
例えば、イスラエル批判の急先鋒であったジャマール・ボウマン下院議員(ニューヨーク州第16選挙区)に対し、予備選挙で対立候補が立てられ、異例ともいえる巨額の資金が投じられたのは(同議員は現職の立場を生かせず敗退した)、この問題を巡る民主党内の対立の深さを印象付けた。
大統領選挙では、イスラエル支持の方針を踏襲したカマラ・ハリス候補がアラブ系有権者の反発に遭い、これが激戦州の一つミシガン州で敗北する一因となった。
今日の民主党にとって、パレスチナ問題はどちらに転んでも政治的リスクのある悩ましい難題になっている。共和党もこのような民主党の苦境を察知し、左派や大学における「反ユダヤ主義」の台頭を執拗に言い立てている。
対する共和党は、近年でも強いイスラエル支持のもと、結束を保ってきたが、ここにきて変化の可能性が議論されるようになっている。
各メディアでは「イスラエルに幻滅するトランプ支持者」「ガザ問題で二分される共和党」を指摘する記事・論考が散見されるようになった。
そこで主に根拠とされるのは、①共和党支持者(世論)②トランプ大統領と考えを共有する主要人物(マージョリー・テイラー・グリーン下院議員、元フォックスニュース司会者のタッカー・カールソン氏など)③トランプ大統領自身の対イスラエル姿勢の変化――である。
例えばトランプ大統領自身は、ネタニヤフ政権が進める各軍事作戦(ドゥルーズ派の保護を理由としたシリアへの軍事介入など)に対して、不満を公言する場面が増えている。
ただこうした指摘に対しては、特に共和党から異論が出ている。「イスラエルに対する幻滅」も「共和党内の分断」も、民主党系メディア(およびその影響を受けた主流派メディア)による誇張や希望的観測であるというのが、こうした異論の柱である。
イスラエル支援の一部停止を提案したグリーン議員は、現在の議会共和党であくまでも例外的存在であり、そして何よりトランプ大統領自身は、重要な局面で常にイスラエルの行動を支持・容認してきた。異論派はこのように強調している。
異論派の言うように、少なくとも現時点で、共和党と民主党の状況を同列に扱うことは不適切である。また前述のように、共和党にとってパレスチナ問題は、民主党支持勢力にくさびを打ち込める政治的にうまみのある争点にもなっている。党派対立の論理も重なり、この先の共和党がイスラエル支持の姿勢をさらに強める可能性もあるであろう。
ただ両者の主張に共通することもある。それは、共和党もこの問題で「一定の変化」を見せているという点である。異論派の主張からは、「声の大きな少数派」であるグリーン議員のような勢力が今後台頭することへの警戒感のようなものも感じられる。
強固だった共和党のイスラエル支持に、わずかながらでもひびが入ったことは注目に値する。そしてより重要なのは、こうしたひびがどこまで広がっていくのかという今後の行方である。









