国際情勢・通商

関西セミナー「2024年とこれからの国際政治を展望する」を開催しました

佐橋客員研究委員

 21世紀政策研究所は5月15日、客員研究委員を務める東京大学東洋文化研究所の佐橋亮准教授を講師に、大阪市内でセミナー「2024年とこれからの国際政治を展望する」を開催しました。同セミナーは、2024年2月20日に東京・大手町で同タイトルにて開催した後、最新動向を加えて関西の会員企業向けに情報発信したものです。

 佐橋氏は冒頭、24年は25年以降の国際政治を中期的にみるうえで非常に重要な年であると指摘。グローバル化の後退や国際経済秩序の緩みが引き起こす「窮屈な世界」が到来する前に、日本の経済界や企業が備えておくべき事柄や取り組むべき方策を示しました。概要は次のとおりです。


■米国の新しい外交戦略と日本の役割

米国バイデン政権は、中国を最も警戒すべき戦略的競争相手として正面に据えて同盟国・同志国との連携を深めており、これを自国の力の源泉としている。また、これまでの軍事的な安全保障に加えて経済安全保障を重視し、日米豪印戦略対話(QUAD)や米英豪によるインド太平洋の安全保障枠組み(AUKUS)、インド太平洋経済枠組み(IPEF)、各国との首脳会談などでイニシアチブを発揮してきた。このような米国の新しい秩序形成のなかで日本が担う役割は特に重要であり、今後さらに増していくだろう。


■日米首脳会談の意義

4月に行われた日米首脳会談は、冷戦終結後の日米間の安全保障を確認した1996年の首脳会談に匹敵する重みを持つ。岸田文雄内閣総理大臣が国賓待遇で招かれ、米国連邦議会での演説も歓迎されたことは米国からの期待の表れであり、共同声明において経済安全保障に関する項目が多く盛り込まれたことは注目に値する。ただし、安全保障の論理と経済の論理の新しいバランスを見いだしていくことが今後の課題となる。


■米中対立を軸とした国際秩序の展望

 2024年は米国大統領選挙の様子見効果により、よほどの突発的な出来事がない限り米中は対話路線となろう。しかし、中期的には米中対立をはじめ、大国間の相互不信や世界の分極化が改善する見込みはない。中国の影響力が増していくなか、米国の指導力への疑念が深まり、米国中心の秩序観はますます縮小していくだろう。日本がこれからの国際秩序に向き合っていくうえでは、欧米主要国およびクローバルサウスとの連携を重視しつつ、中国との対話も継続していくことが肝要である。大国間競争による世界の分断を防ぎ、多層的な秩序構築を推進することが日本外交の活路となる。

佐橋氏は最後に、日本の企業へのメッセージとして、①従来のグローバル化や国際協調の時代を前提にしない「予測力」を高めること②米国連邦政府やEU本部など先進諸国・地域の動向をよく知ること③経済的威圧に関して日本政府ともコミュニケーションをとり、経済封鎖・断絶に備えること④社内教育で国際情勢や地政学リスクを取り上げて、世界を見る力を養っていくこと――が必要であると語りました。

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