国際情勢・通商

シンポジウム「中国経済の課題と展望」を開催しました

手前右から川島研究主幹、岡嵜研究委員、梶谷研究委員、内藤研究委員

内藤研究委員

梶谷研究委員

岡嵜研究委員

川島研究主幹

 21世紀政策研究所 の中国情勢研究プロジェクト(研究主幹=川島真・東京大学大学院総合文化研究科教授)は3月28日、会員企業の参加を得て、シンポジウム「中国経済の課題と展望」をオンラインで開催した。川島研究主幹と経済を専門とする研究委員3人が、低迷する中国の経済情勢を俯瞰し、社会問題となっている労働市場や困窮する地方財政を分析した。概要は次のとおりである。

 

■中国経済の現状分析と課題(内二郎・大東文化大学教授)

 中国経済は今後も長期低迷が予想される。とりわけ、デフレ傾向による消費・投資のマインド低下が深刻である。一方、経済政策は「ちぐはぐさ」が目立つ。その一例は、外資の積極的な誘致を進めると言いながら、いわゆる反スパイ法の改正を実施したことである。この一見迷走する政策は、習近平政権の特徴でもある。国家安全を重視し、党主導を強化するために、組織や人事を再編したが、それにより政策決定や運営が混乱していると考えられる。また、困窮する地方経済は、隠れ債務を抱える地方政府傘下の投資会社や、土地使用権の譲渡に収入を頼った財政の立て直しが課題である。

 

■中国における労働市場と非正規労働(霊活用工)(梶谷懐・神戸大学大学院経済学研究科教授)

 中国では今、若年層の失業問題が焦点となっている。この問題を理解するためには、労働統計を正確に把握する必要がある。例えば、失業者のなかに若年層の「寝そべり(躺平)」「すねかじり(啃老)」が含まれておらず、また大幅に増加するフレキシブルワーカー(霊活用工)の実態も不明瞭である。中国では「農民工」といわれる人たちが、農村から都市へ臨時工や日雇い労働者として移動していた。2010年以降は失業しても都市にとどまり、霊活用工となっている。増加する霊活用工が今後の中国の労働市場にいかなる影響を及ぼすのかを含め、中国の労働市場問題は、中長期的、構造的な変化として捉えることが肝要である。

 

■中国財政の持続可能性と中央と地方のバランス(岡嵜久実子・キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)

 中国共産党は、財政均衡を強く意識した政策運営を長年続けてきた。しかし、「未富先老(十分に豊かになる前に高齢社会が訪れる)」の状況下で、財政の持続性の維持は重要な課題である。一方、地方政府の財政は土地使用権譲渡金収入に頼ってきたため、不動産市場の低迷で大きな打撃を受けている。地方財政を助けるために、これまで中央政府から地方政府への移転支出が積極的に行われてきた。この移転支出をタイムリーに行い、地方のニーズにいかに柔軟に対応できるかが課題である。また地域間の格差も深刻な問題となっている。これは税収の地方政府の取り分だけを増やすことでは解決できない。全ての税収をいったん中央政府に集めて再分配する形が望ましいだろう。

 

■パネルディスカッション

続いて、川島研究主幹がモデレーターを務め、講演者3人とパネルディスカッションを行った。川島研究主幹は講演を踏まえて、①習近平政権にとっての経済政策の位置付け②経済再建のために外資に頼る可能性③中国経済の日本化④都市に居続ける農民工と都市政策などの論点を挙げて、講演者と議論を深めた。最後に、中国に進出、あるいはこれから進出する日本企業が留意すべき点について言及し、締めくくった。

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