国際情勢・通商

21世紀政策研究所・韓国経済研究院 共同セミナー「少子化と地域消滅の克服のための企業の役割:日・韓の経験と比較」を開催しました

韓国経済人協会提供

21世紀政策研究所では、昨年度より早稲田大学の深川由起子教授に研究主幹をお務めいただき、未来志向の日韓関係構築に向けた取り組みを進めています。その一環として、3月28日、韓国・ソウルのFKIカンファレンスセンターでセミナーを開催しました。韓国経済人協会傘下のシンクタンクである韓国経済研究院と共同で、市民生活の向上に寄与する日韓産業協力の方向性を示すべく、両国の共通課題である「少子化」・「地域活性化」をテーマとして取り挙げました。

 

開催挨拶・祝辞

セミナーの冒頭、韓国経済研究院のチョン・チョル院長が「このセミナーを通して両国企業が事例を共有し、お互いにアイディアを得ることができる生産的な交流の場になることを願う」と挨拶し、続いて21世紀政策研究所の吉村隆事務局長は「少子化と地域活性化の問題は両国が直面した共通課題であり、両国企業の持続的な交流と協力によりソリューションを見つけ出すことを期待する」と応えました。

 また、来賓としてお招きしたイ・インホ韓国国民経済諮問会議副議長からは、開催にあたっての祝辞をいただきました。

 

第1セッション:日韓両国の少子化と地域消滅、現況と示唆点

 まず、人口学を専門とする駒澤大学の増田幹人准教授が登壇し、日本の出生率の最近の動向について発表しました。日本の特徴として、COVID-19により出生率の減少が顕著に加速したことを挙げつつ、都道府県別の人口動態や将来の人口推移などについてデータに基づき解説しました。そして、日本の出生率低下の要因の一つとして若者の結婚への支援が不十分であることを指摘、政府レベルの結婚支援や子の教育支出負担軽減策に言及し、特定の地域で有効だった政策から学ぶことも大切だと述べました。

 韓国の低出産の現状を発表した韓国経済研究院のユ・ジンソン首席研究委員は、韓国の女性が出産を嫌う最大の要素はキャリア断絶だと分析しました。また、正規雇用と非正規雇用、大企業と中小企業間の出生率格差を示し、仕事と家庭両立のための柔軟な制度の定着に加え、政府としても家族に優しい企業制度を後押しする支援が必要だと訴えました。

 

第2セッション:少子化克服と地域活性化に向けた企業の役割

韓国企業からの事例発表で登壇したPOSCOのキム・ヨングングループ長は、役職員のライフサイクル(結婚、妊娠、出産、子育て、子の教育など)に応じたファミリーフレンドリーな16の社内制度を紹介。ロッテグループのチョ・オクグン首席は、過去10年間に推進したファミリーフレンドリー政策で劇的に改善した社内出生率を示し、今後は母親支援だけでなく、父親への育児休暇や育児期勤務時間短縮などの支援を拡大する予定だと明らかにしました。

 

・日立製作所「少子化時代に向けた社会と地域のデザイン:若者のためのライフデザイン」

 日本企業の事例発表では、日立製作所の吉野正則シニアプロジェクトマネージャー/北海道大学副理事、特任教授が登壇しました。吉野氏は、他のOECD諸国と比べて日本の低出生体重児の割合が高いことに着目し、この原因を腸内細菌や食事から考え、改善を目指す「母子健康調査」の取り組みを北海道の岩見沢市とともに進めていることを報告しました。そして、家族が安心して住める町づくりを北海道の地で実現すべく取り組んでいることや、そのモデルを日本全体へ広げていきたいというビジョンを示し、企業・自治体・大学・市民がつながることで世界の若者が集い、若者がつくる、若者のための未来会議を創生したいと述べました。

 

・ANA総合研究所「地方創生のご紹介:エアラインの視点から」

 続いてANA総合研究所の藤崎良一執行役員、地域連携部長から地方創生に関する取り組みが発表されました。藤崎氏はまず、少子高齢化の余波によってパイロットやエンジニアなどの航空人材不足が深刻になると予想。また、日本の国内線旅客需要の低迷が懸念されることから、それらに対処する取り組みとして「アグリ・スマートシティプロジェクト」を紹介し、地方を活性化しながら地方と関係する「関係人口」を増やしていくことが大切だと強調しました。そして、少子高齢化は官民が協力して解決しなければならない深刻な社会課題である一方、企業にとってはビジネスチャンスと捉えることもでき、社会の大きなうねりを巻き起こせるように活動していきたいと語りました。

 

第3セッション:総合討論

最後に、深川由起子早稲田大学教授/研究主幹とカン・ソンジン高麗大学教授を共同座長とした総合討論が行われました。深川教授は、少子高齢化問題が深刻化している今こそ、若者を起点とした地方経済再生に取り組むことが重要であると強調し、それらを実現していくための企業の方策について、第2セッションに続いて登壇した吉野氏と藤崎氏、韓国側の有識者とともに議論を深めました。そして、個人の幸せを追求していけるような社会を日韓で共創し、未来志向の関係構築を強固にすべく一層の連携を呼びかけ、セミナーを締めくくりました。

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