国際情勢・通商

時事解説「バイデン政権『前半戦』の分析と今後の展望」<第4回>【西住祐亮 研究委員(中央大学法学部兼任講師)】

 2020年の大統領選勝利でスタートしたバイデン政権は2211月の中間選挙を経て「後半戦」に入りました。

 本解説シリーズでは、21世紀政策研究所米国研究プロジェクトメンバーが、バイデン政権の「前半戦」における主要政策の動向やアメリカ民主主義の現状に関する分析に加え、来たる24年大統領選の展望について8回にわたり連載します。

 第4回目は、西住祐亮研究委員です。本文に続き、さらに深い解釈を加えた論考も掲載しております。

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外交政策をめぐる党派対立と党内対立~バイデン政権2年で各派の力関係はどう変わったか

 

21世紀政策研究所研究委員(中央大学法学部兼任講師)

西住祐亮


 中国およびロシアとの大国間競争が米国外交の中心課題となるなか、特に米中対立については、かつての米ソ冷戦と比較されることが増えている。米中対立と米ソ冷戦の比較では、多くの共通点が列挙されると同時に、重要な相違点も指摘されてきた。経済を中心とする米中の相互依存の高さは、その代表的なものである。これに加えて、特に米国政治の文脈で指摘すべきなのが、現在の米国が抱える国内対立である。

 党派対立の先鋭化を意味する「分極化」(横の対立)が、米国政治の重要な特徴であると指摘されて久しいが、近年はこうした分極化と同時に、両党内の主導権争い(縦の対立)も激しさを増している。こうした「縦横の対立」の影響は、明らかに外交の分野にも及んでおり、外交政策における米国内の結束を難しくしている。国内の結束に不安を抱えながら、中国・ロシアとの競争に臨まなくてはならない難しさも、米ソ冷戦時代との決定的な違いとして認識すべきものである。

 党派対立と党内対立を背景に、近年の米国では、主に4つの外交路線(共和党主流派、民主党主流派、共和党ポピュリスト、民主党ポピュリスト)の存在が指摘される。これらの各路線は互いに競合する関係にあるが、バイデン政権発足後の2年半で、その力関係はどのように変化したであろうか。とりわけ世界を大きく揺るがしたロシア・ウクライナ戦争は、米国内にいかなる影響をもたらしたであろうか。

 まず民主党に関しては、外交分野における左派勢力の影響力低下が指摘できる。左派勢力が外交で守勢に回っている主な理由は、国際情勢の変化である。フィンランドが長年続けてきた中立政策を転換するなど、ウクライナ戦争は、左派勢力の主張の前提を数多く突き崩すことになった。左派勢力が盛んに訴えてきた「国防予算の削減」も、ウクライナ戦争を受けて、ますます実現が難しくなっている。

 これに対して、ウクライナ戦争が共和党にもたらした影響は複雑である。現在の共和党は、ウクライナへのより大胆な支援を求める主流派と、ウクライナ支援の縮小を求めるポピュリストが激しく対立しているが、その優劣は、時期や次元によって異なる。侵攻直後の時期においては、あらゆる次元で、主流派の考えが優勢であった。しかし戦争の長期化により風向きは変化し、2310月現在、有権者・世論と、24年の大統領選挙に向けた候補者の双方で、支援反対論が優勢になりつつある。

 2310月に始まったイスラエル・ハマス戦争も、米国内各派の力関係に変化をもたらし得る注目すべき事象である。特に民主党は、この問題について対立の火種を抱えており、今後の展開が注目される。

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