国際情勢・通商

講演会「New Energy Realities」を開催

ポール・サンダース氏

久保文明研究主幹

杉野綾子研究委員

左からポール・サンダース氏、久保研究主幹、杉野研究委員

21世紀政策研究所の米国研究プロジェクト(研究主幹=久保文明防衛大学校長)は523日、米国のエネルギー・気候政策の研究機関である「Energy Innovation Reform Project」代表のポール・サンダース氏をお招きし、講演会「New Energy Realities」を開催しました。講演に続き久保文明研究主幹のモデレートのもと、杉野綾子研究委員(武蔵野大学准教授、日本エネルギー経済研究所客員研究員)にも加わっていただき、「ロシア・ウクライナ戦争のエネルギー問題および国際秩序への含意」をテーマにパネルディスカッションを行いました。サンダース氏の講演、3氏のパネルディスカッション要旨は次のとおりです。

ポール・サンダース氏講演

エネルギートランジション(エネルギー転換)は大きな課題だが、地政学、政治、経済、資源の各分野で転換を困難にする問題が立ちはだかっているので、期待されているほど速くは進まず、コストもかかるので実現は難しい。特に米中関係の悪化やロシアのウクライナ侵攻はエネルギー転換を阻害している。年間のCO2排出量では中国がアメリカの2倍以上の伸びを示しており、多くのアメリカ人は中国が排出を増やしているのに、何故アメリカが犠牲にならなければならないのかと考えている。また、エネルギーの供給確保のためには化石燃料エネルギーへの投資がもっと必要な面と、エネルギー移行を速めるためにはクリーンエネルギーに対して投資が必要な面があり、両者の板挟み状態にある。

今後の見通しとしては、脱炭素化がアメリカ経済の目標になっておりエネルギー転換の重要性は変わらないものの、競争力向上の方に重点が置かれた施策や法制化が一層進められることになるであろう。それが中国を強く意識したものであったとしても、実際には緊密な貿易相手国や同盟国が巻き添えになる場合があり、ダメージを最小限にするためには政府間の緊密な協議が欠かせない。

 

パネルディスカッション

(杉野綾子研究委員)

10年ほど前のシェール革命の際に、エネルギー欠乏の時代は終わり充足の時代に移るという見方があったが、脱炭素を急いだためにバッテリーや希少鉱物などの素材の欠乏が始まっており、また、化石燃料も投資が足りず、エネルギー不足という時代になりそうな状況にある。結局シェール革命とは何だったのか、という思いがする。一方、昨年ミネラル・セキュリティ・パートナーシップが立ち上がり、これから動きだす段階だが、鉱山開発、精錬、加工からリサイクルまで強靱なサプライチェーンを目指すと言われているが、アメリカがどういうリーダーシップを発揮するつもりなのかが注目される。

 

(久保文明研究主幹)

中国の国際秩序に対する不十分な姿勢、ロシアによるウクライナ侵略、アメリカ自身の国際秩序を守ろうという意思の弱まりなどによって国際秩序が危機にある。今後、バイデン政権及び共和党のロシア、中国に対する見方、あるいはアメリカが国際社会を再び支える役割をどう担っていこうとするのかが注目される。また、今世紀最初に「フラットワールド」という言葉が産まれ、グローバリゼーションの時代となって資本、情報、人が自由に移動する時代が来たと言われたのが、今はかなり逆方向になってきている。エネルギーも端的な例であり、武器にさえしている国も出てきているためにそれに正面から対応せざるを得ない国もあり日本も巻き込まれている。グローバリゼーションの時代は終わったとも言えるが、分野によってはまだ続いている。どの部分で一定程度政府が介入して規制をかけていくか、どの部分で自由なマーケットのメカニズムに委ねていくかということを国ごとに判断しなければいけない。一つの原理だけでは済まなくなった難しさがある。一方、ウクライナ問題については西側のG7の国、あるいはハンガリーを除いた東ヨーロッパの国々やバルト諸国などのウクライナを支える意思は予想されていたよりも強く、継続もされていて弱くなってはいない。長引くと今後ロシアの方が不利な状況になっていくのではないかという見方もある。

 

(サンダース氏)

シェール革命は重要な動きであったがスピードが少し遅すぎたという感がある。どうしたら脱炭素できるかを考え始めた時期にシェール革命が始まったが、エネルギーは日常生活にとって極めて重要な要素なので政治的な問題となりやすく、その結果脱炭素化したくてもなかなか進まないし、今後アメリカのエネルギー政策がどうなるかも不透明だ。また、鉱物の確保については、バイデン政権が非常に重視していて、共和党も熱心なので、今後超党派で取り組むべき課題になってくるのではないかと思う。ただ、この分野でも中国は強く、アメリカは環境を破壊するような鉱山掘削とか加工施設建設を中国ほど簡単にはできず、中国に比べればコストも高いという事情もある。また、アメリカのリーダーシップについては、19902000年代には軍事行動にも積極的で、リーダー層はアメリカが世界でのリーダーシップを取るためにそれが必要だと言い続けてきたが、国民は戦争疲れしてきたと思う。リーダーシップと軍事行動を一体として定義してきたことについて、多くのアメリカ人はそれを望まなくなってきたということだ。アメリカの指導者は新しいビジョン、今後のあるべきアメリカのリーダーシップの姿を示すべきであり、それは国民世論をもっと巻き込み、反映したものである必要がある。

また、アメリカの政治の中でこれからも中国と関係を持っていこうという考えは少数派となっており、中国と競争あるいはそれ以上のものを望んでいる考えが党派を超えて広がっている。一方、グローバル化については、もうピークに達したと考えており今後はだんだんと脱グローバル化が進むのではないか。但し、例えば半導体も、最も先端的な技術に限って禁止しており、全てを禁止するわけではないように、全て包括的にというよりはもっと選別的な形で進められるであろう。ウクライナ問題については、プーチン大統領の戦略としては待ちの姿勢と考えられる。ロシアは軍事的に勝利を飾る必要はなく、大きな戦いをしたりより多くの領土を自分のものにしたりする必要もない。プーチン大統領はアメリカおよびその他の国が疲れるのを待っている。ウクライナは西側からの弾薬やミサイルの供与が無くなり戦争を続けることができなくなれば妥協してきて、ロシアが望む結果が得られると考えているのではないか。

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