産業・テクノロジー

報告書「データに関する権利のあり方」を発刊しました。

「データに関する権利のあり方整理プロジェクト(研究主幹 宍戸常寿・東京大学大学院法学政治学研究科教授)」では、2022年度の研究の成果を報告書「データに関する権利のあり方」としてとりまとめました。

本報告書では、新時代のデータに関する権利のあり方について、法学者、経済学者、法律実務家、企業担当者という様々な切り口から合計9名が考察しています。

第1章では、データに関する権利のあり方を整理するにあたって基礎となる概念整理を行っています。

第2章では、個人情報保護と、企業に過負荷をかけないデータの利活用を両立させるための制度改善について提言しています。

第3章では、製薬企業における情報の利活用が進まない原因を、本人からの同意取得の困難さ等に求め、健康・医療情報の利活用の推進に向けては、同意を必要としない代わりに、信頼できる第三者機関で適切な利用審査を行うとともに、本人がオプトアウトできるようにする出口規制に切り替えて、法制度とデータ基盤が整備されるべきであると考察しています。

第4章では、デジタル技術の進展に伴い、データの利活用が個人に与える影響が大きくなっているとの分析を前提に、今後企業がユーザーや社会からの信頼を勝ち取るためには、ユーザーや社会の側に立った主観的な評価に基づいて企業の意思決定に助言するDPO(Data Protection Officer)の設置が求められると論じています。

第5章では、個人情報についての望ましいルールを考えるにあたって、個人情報を利活用することで生み出される経済的価値を明らかする等の経済学的視点を持つことが必要であるが、そのような観点からの検討が十分でない旨の問題意識が示されています。

第6章では、IoTやAI等の情報通信技術の発展によって利用価値が高まっているノンパーソナルデータに関し、日本では、特定の情報利用行為が法律で規制され、具体的な保護内容やデータの管理方法等については契約で定められることで、データの保護と柔軟な利活用が図られていくと分析したうえで、さらなるデータの流通環境の整備に向けた提言を行っています。

第7章では、製造業におけるデータを含むノウハウの帰属主体及び活用実態を紹介したうえで、特許権法制等の既存の法制度を比較参照しつつ、製造業におけるデータの利活用を促進するための「データ権」創設を提唱しています。

第8章では、米国におけるデータ保護制度に関し、主に米国統一商事法典(UCC)第12編に新たに規定された「支配可能な電子記録(CER)」という概念について詳しく紹介し、我が国のデータ関連政策および法制度への示唆について述べています。

第9章では、EUのデータ活用法制に向けた立法の動きについて紹介した上で、我が国の今後のデータ関連法制のあり方についての示唆を論じています。


<目次>

第1章 データに関する権利のあり方についての整理―序論的考察
1.はじめに
2.「権利」の概念
3.データに関わる権利の論点
4.データに関する権利へのアプローチ
5.若干の帰結

第2章 個人情報に対する個人の権利強化と利活用の両立に向けて
1.個人情報の範囲は広い
2.本人はどのような権利・保障を受けるべきか
3.おわりに

第3章 製薬企業における健康・医療情報の利活用に向けた課題と期待
1.製薬企業における情報の利活用
2.個人情報の利活用に向けた法制上の課題と期待
3.健康・医療情報のデータ基盤の課題と期待
4.European Health Data Space(EHDS)について
5.健康・医療情報の利活用に対する理解醸成について
6.まとめ

第4章 Society 5.0時代のデータに関する本人の権利とデータプライバシーの保護のあり方について
1.はじめに
2.デジタル技術の進展がデータプライバシーに与える影響
3.企業に求められる対応
4.最後に

第5章 データをめぐる権利の「周辺問題」―経済学的視点からの考察―
1.はじめに
2.プライバシー、個人の権利利益に関する議論に触れて
3.「公益」に関する議論に触れて
4.個人情報の「取引」について
5.おわりに

第6章 ノンパーソナルデータの保護のあり方とデータ流通・利活用の促進:知的財産法を中心に
1.はじめに
2.データの特徴
3.データの法的保護
4.データの流通環境の整備へ向けたデータ保護と利活用のバランス
5.おわりに

第7章 「データ権」創設の提言~製造業の視点から~
1.はじめに
2.製造業ビジネスにおけるデータの活用
3.データを活用するビジネスの権利処理
4.データの帰属と活用をめぐる制度上の課題と提言
5.今後の検討に向けて

第8章 米国におけるデータの保護制度
~米国統一商事法典(UCC)第12編の新設~
1.はじめに
2.米国におけるデータの法的位置づけと関係法令の現状
3.米国における新たな動き:新設された米国統一商事法典(UCC)第12編
4.おわりに

第9章 EUデータ法構想とデータ活用法制
1.はじめに
2.データ法案
3.データガバナンス法
4.分野別の立法
5.データ活用法制のあり方

<執筆者(順不同)>
宍  戸  常  寿  東京大学大学院法学政治学研究科教授
高  口  鉄  平  静岡大学学術院情報学領域教授
酒  井  麻千子  東京大学大学院情報学環准教授
生  貝  直  人  一橋大学大学院法学研究科教授
水  町  雅  子  宮内・水町 IT 法律事務所弁護士
望  月  健  太  法律事務所 LAB-01 ニューヨーク州弁護士
藤  田  和  也  アステラス製薬(株)渉外部渉外グループ課長
長谷川  正  憲  キヤノン(株)知的財産法務本部知的財産渉外第三部長
小  柳    輝    Z ホールディングス(株)GDPO 部長

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