3. 公的資金投入に際し遵守すべき原則と運営ルール

3-1. 社会的合意としての預金者、投資家および保険・年金契約者の保護

  公的資金の投入は、不良債権問題の早期解決を目的としたやむを得ない措置であり、すべての国民が等しく損失を負担するものである。このため、その実施に際しては、社会的な合意を得たうえで次に掲げる原則を遵守のうえ慎重に取り扱い、日本国民一人ひとりが納得できるものとなるよう努力することや、不良債権の回収促進により公的資金の投入額を最小限にとどめるよう努めることが強く求められる。

  1. 投入資金は財政資金から支出することとし、財投資金は一切利用しない。
  2. 日銀特融については、内外金融市場における混乱の回避を目的とした緊急かつ一時的な公的資金の投入措置として位置づけ、過度の依存は厳に避ける。
  3. 公的資金の投入により保護されるのは、預金者、投資家および保険契約者に限定する。
  4. 公的資金による優先株の取得、問題金融機関に対する資金援助といった問題先送り的な金融機関救済策は、地元経済に深刻な影響を及ぼす地域金融機関を除き、実施しない。
  5. 公的資金の投入対象となった破綻金融機関は清算・整理させる。また、経営者の退任、株主・出資者による損失負担についても当然のこととする一方、背任・横領に対しては厳しい刑罰を科す。

3-2. 「特別会計」によるアカウンタビリティの確保

  公的資金投入にかかわる費用を明確化するため、「特別会計」を設け、この特別会計から預金保険機構などを通じて不良債権処理に際し真に必要となる損失補填資金あるいは破綻金融機関の資産・負債を承継した健全な金融機関に対する援助資金として直接投入する。なお、「特別会計」の管理・運営は大蔵省または金融監督庁が担当する。
 また、この特別会計を通じた財政支出が安易に流れるのを未然に防止するためにも、次のようなかたちで特別会計運営にかかわるガバナンスの確立に努める。

  1. 財政資金投入金額決定に際しての責任体制の確立と決定プロセスの透明化
  2. 刑事的対処および司法との連動を重視した不良債権回収体制の整備
  3. 財政資金の投入および不良債権の回収状況にかかわるアカウンタビリティの確保

3-3. 自己規律の確立という目標への橋渡し

  財政資金の投入が日本経済活性化のための緊急措置であり、今後そうした事態の発生を厳に避けることを明確にするためにも、次のような再発防止策を国民との間の社会的契約として1998年度夏ごろまでに策定のうえ、3年間の経過期間を経た2001年度から正式に導入することとする。

  1. 金融機関、保険会社および証券会社における経営の健全性は営業活動と自己資本との関係により測定できることを周知・徹底する一方、時価会計に基礎を置いた経営財務内容の開示(ディスクロージャー)を一段と推進し、預金者、保険・年金契約者や投資家が健全な取引先を選択できる環境の整備に努める。
  2. 金融機関、保険会社および証券会社に課された早期是正措置における各種措置の発動基準や措置内容の強化・厳格化を図り、問題金融機関等が市場のなかで炙り出され、自動的に退出=破綻を余儀なくされるメカニズムを強化する。
  3. 預金保険料率については自己資本比率に基づく可変性とすることにより、金融機関経営者の自己規律マインドの向上を図る。
  4. ビッグバンを通じて徹底した規制の撤廃・緩和を行い、金融界と行政当局との間の持たれ合いを排除するとともに、通達の廃止および各種規制の政・省令化などを通じて金融行政の透明化を図る。
  5. 預金保険機構の充実に加え、金融機関監督体制の整備・拡充を図ることにより問題金融機関の早期把握に努める。このほか、金融機関の破綻処理にかかわる司法的プロセスの整備を通じて破綻金融機関処理の透明性を高める。

3-4. 預金保険機構の権限強化

  わが国の場合、金融機関の破綻処理に際しての預金保険の発動形態としては、預金保険の支払い(いわゆるペイオフ)と営業譲渡・合併等に対する資金援助という2種類の方法が規定されている。しかし、1995年12月にペイオフは向こう5年間実施しないことが政府公約として明言されているため、破綻処理方法は事実上、資金援助に限定されている。資金援助という破綻処理方法は、営業地域や店舗網が重複している場合には破綻金融機関を合併する、あるいは営業譲渡を受ける金融機関の経営上の効率性を低下させたり、所要資金調達のための預金保険料率引き上げを媒介として、健全な金融機関の体力を低下させるおそれがある。
 今後、金融機関の破綻が大きく増大すると予想されるなかにあっては、預金保険料を財源とした資金援助は責任準備金の枯渇とともに実行困難な事態に陥るおそれが強い。こうした事態に対応するためにも、本年11月以降2000年度末までに破綻した金融機関の処理には、時限的措置として先に述べた「特別会計」から財政資金を投入することとする。加えて、破綻処理スキーム多様化のため、預金保険機構に対し、以下に掲げる権限を新たに付与する。

  1. 大蔵省あるいは金融監督庁長官からの要請に基づき管財人として破綻金融機関の運営および資産・負債の健全な金融機関への売却を行いうる権限、
  2. 破綻金融機関の資産・負債を他の金融機関に譲渡するまでの間、一時的に管理する無資本の資産管理銀行(いわゆるブリッジ・バンク)を設立・営業する権限、および
  3. 破綻金融機関から接収した不良債権を債権回収機構へ売却するとともに、その回収不能額を財政資金の投入により最終的に償却する権限。

3-5. 預金保険機構による資産内容の洗い出しと資産・負債の売却

  預金保険機構は、管財人としての権限に基づき大蔵省あるいは金融監督庁と協力して破綻金融機関の資産内容等を調査・精査し、正常資産と不良資産とに分類するとともに、回収不能額を確定する。その後、資産・負債の承継を希望する金融機関に売却する。この間、資産内容の洗い出し過程のなかで、背任、横領など違法性の疑いのある取引を発見した場合には、司法当局への告発を義務づけることとする。
 なお、破綻金融機関の規模が大きかったり、資産内容の洗い出しに時間がかかると見込まれる場合には、預金保険機構の管理の下に資産管理銀行を設立し、一時的に資産・負債を承継させることができる。

3-6. 不良債権回収機構の整備

  破綻金融機関が有していた不良債権の回収機構としては現在、整理回収銀行と住宅金融債権管理機構の2つが設けられている。このうち整理回収銀行の債権回収事務については、破綻した信用組合から受け継いだ不良債権に限定されているが、不良債権処理事務の効率的な運営を目指して、受け入れ対象債権を信用組合から銀行、すべての協同組織金融機関および保険会社の不良債権にまで拡大する一方で、預金を売却するとともに銀行免許を返上のうえ不良債権の回収機構に改組する。そして、住宅金融債権管理機構と合併させることにより、不良債権回収機構の整備を図る。
 新たに設立された不良債権回収機構は、不良債権を破綻金融機関単位で管理のうえ回収に努める一方、資金については預金保険機構による保証を付したうえで市場から調達することとする。不良債権の回収により得た資金は、債権者平等の原則にしたがい、一般債権者および債権回収機構に分配する。債権回収機構では、この分配金で借入金を返済するが、最終的に残った損失については、「特別会計」からの財政支出により補填する。

3-7. 保険・年金契約者、投資家の保護

  保険・年金契約者および投資家についても、2000年度までの間は預金者保護とのバランスを考慮のうえ、保険会社、証券会社の破綻から次のとおり保護・救済することとする。

  1. 保険・年金契約に関しては、予定利率等の引き下げを前提としたうえで契約が継続されることとする。そして、保険会社破綻に伴い発生した責任準備金の不足部分のうち保険契約者保護基金からの拠出で賄いきれない部分については、「特別会計」からの財政資金投入により補填する。破綻保険会社の保険・年金契約の管理・運営は、受け皿保険会社が行い、不良債権の回収については債権回収機構に委託することができる。
  2. 証券会社が顧客から預かった資産が不足していた場合には、当該不足部分を「特別会計」からの寄託証券補償基金あてに支出される財政資金によりこれを補填する。
  3. このほか、金融機関と同様に、公的資金の投入に際しては、破綻した保険会社、証券会社においても経営者の退任、株主による損失負担は当然のこととする。さらに、大蔵省あるいは金融監督庁または証券取引等監視委員会が資産内容を洗い出し、背任など違法性の高い取引を発見した場合には司法当局へ告発するというかたちで厳格な責任追及を行う。