2. 今なぜ公的資金の導入が求められるのか
2-1. 不良債権の重し
不良債権の処理は、徹底したリストラをはじめとする金融機関自らの努力によって解決されるべき筋合いにあり、多くの金融機関においてはこれまでの間、不良債権処理に積極的に取り組んでいる。しかし、そうした経営努力にもかかわらず、都市銀行、長期信用銀行、信託銀行、地方銀行および第2地方銀行協会加盟地方銀行という6業態合計の不良資産残高は1997年3月末現在で約24兆円、そのうち今後償却あるいは引き当てを要する金額は1996年度業務純益合計の2.2倍に相当する14兆円にのぼるなど、なお巨額の規模に達している。また、保険会社においても運用収入が低迷し、経営上の困難な問題に直面している会社がみられるほか、証券会社でも株価低迷のなかで赤字決算を強いられる会社が多い。
これら不良債権問題や経営内容の悪化は、銀行、生命保険会社および証券会社による個々の経営の自助努力だけでは解決しえない規模に達し、日本経済に漂っている閉塞感の源泉となっている。そうした事態を改善するとともに日本経済を活性化させるためには、この閉塞感を解消することが求められる。そのためにも、経営危機に瀕した金融機関を速やかに破綻させるとともに、公的資金を早期かつ大胆に投入のうえ不良債権問題を早急に解決することが喫緊の課題となっている。
2-2. 経済的「汚染」の懸念
仮に公的資金が投入されずに不良債権問題の解決が放置あるいは先送りされ続けると、金融不安に伴う信用収縮と景気悪化の悪循環が作用し、日本経済が極めて深刻な事態に陥るおそれが強い。すなわち、金融不安の高まりに伴う株価の一段の下落、為替の円安化の進展とともに銀行の自己資本比率低下や格付けの低下が促されるなかで、中小企業向け融資の貸し渋りに代表される銀行融資の減少やその他の信用取引の縮小が懸念される。この信用収縮は景気腰折れ懸念の高まっている日本経済に対しデフレ・インパクトを与えるとともに、株価の下落をさらに促し、株価の下落は再度、信用収縮をもたらすという可能性さえある。
こうした悪循環は失業の増大をもたらす一方、金利も現在の低金利で推移することとなり、その結果、老後のために積み立てられるべき年金の運用もままならなくなる。そうしたなか、年金給付金の引き下げや負担の増大を強いられるというかたちで、日本経済は暗くて長いジリ貧という名のトンネルのなかに埋没し、内需拡大という公約を果たせないまま国際的に孤立するという最悪のシナリオも浮上する可能性がある。
2-3. 金融規律の確立
一方、公的資金の投入により不良債権問題が片付けば、日本経済に漂っていた金融不安や閉塞感が払拭されるとともに信用収縮も終息し、金融システムが正常に機能するようになる。海外の投資家も安心して日本の企業に投資できるようになるため、株価の上昇や為替相場の円高化が見込まれる。そうしたなかで、日本経済が安定成長軌道に復するとともに国民生活も向上することが期待される。
公的資金の投入は、金融機関に対する経営規律の向上策の実施や金融機関監督体制の見直しと併せて実施される必要があるのはいうまでもない。これらの施策はまた、次のような経路を通じて日本経済の活性化に繋がることが見込まれる。
- 金融界と行政当局との持たれ合いの排除、金融行政の透明化
- 経済主体ごとの自己規律と統治(コーポレート・ガバナンス)の回復
- 市場原理に則った効率的な資源配分の達成
- 金融機関による日本版ビッグバンへの対応力の向上
- 行政改革、政府の役割に関する見直しなど、日本経済の構造改革の推進