公的資金投入に関する緊急提言
1997年11月28日
21世紀における日本の金融については、金融に求められる役割が調達から運用へと変化するなかで、ディスクロージャーの充実と公正な価格の形成に基づく投資家の自己責任原則を確立する必要がある。そうした21世紀の金融の基礎を固めるためにも、以下に掲げる五つの原則に基づき公的資金を投入し、現下の不良債権問題を早急に解決することを提言する。
五つの原則
- 目的:預金者、契約者の保護
2000年度末までの間は、預金、顧客預かり資産および保険・年金契約については保護することとし、そのため真に必要となる資金については新たに設けられる「特別会計」から支出する。とりあえず1997年度の補正予算で2兆円の特別国債の発行を行う。必要に応じて特別国債の入札発行ができる枠組みを、総計10兆円を上限に設定する。 - 前提:破綻金融機関の清算
公的資金の投入はあくまでも預金者等の保護を目的としたものという位置づけを明確にするため、破綻した金融機関については、地元経済に対し深刻な影響を及ぼすおそれの強い地域金融機関を除き、すべて清算する。 - 司法手続きの開始:不正の摘発
破綻金融機関においては、経営者の退任、株主・出資者による損失負担は当然のこととする。また、破綻金融機関において背任、横領など違法性の疑いのある取引が発見された場合には司法当局への告発を行うなど、厳格な責任追及を行う。 - 到達点:金融機関の自己規律の確立
不良債権問題の再発防止のため、2001年度の実施を目指して自己資本(保険については支払余力)を基準とした早期是正措置における発動基準や措置内容の厳格化を図る。また、預金保険料率も自己資本比率に基づき異なった料率とする。これらの措置はいずれも金融機関経営者の自己規律マインドの向上を図るためである。加えて、時価会計に基礎を置いた経営財務内容の開示(ディスクロージャー)を一段と推進し、預金者や投資家が健全な取引先を選択できる環境の整備に努める。 - 費用の最小化:借り手責任の追及
公的資金の投入金額を最小限にとどめるためにも不良債権の回収に努め、財政資金負担の軽減を図る。そのために、預金保険機構を中心とした不良債権に関する回収機構の整備を図る。
公的資金投入による保護の対象
破綻した金融機関、保険会社および証券会社に設定されていた預金等、保険・年金契約および預け金については、一般的な商取引慣行を勘案のうえ、次のような方針に基づき保護する。
- 銀行、協同組織金融機関の預金および元本補填契約のある金銭信託(貸付信託を含む)は、全額保証する。
- 証券会社が顧客から預かった資産については、寄託証券補償基金への資金援助により全額保証する。
- 保険・年金契約に関しては予定利率等の引き下げを前提とし、まず契約の継続を図ることとする。保険会社破綻に際しては、当面、発生した損失額のうち、保険契約者保護基金からの拠出で賄いきれない部分については、財政資金の投入により補填する。
- 破綻金融機関向けの劣後債権については、一切保証の対象としない。
提言に際しての基本的な考え方
- 預金者保護、契約者保護のための公的資金の投入であって、金融機関の救済のためではない。
- 預金者等の不安を放置すれば金融システム不安につながり、支払システムの安定性が脅かされる可能性が無視できないため、異例の仕組みをとらざるをえない。したがって、正常化が実現すれば2001年度の到来を待たず回収勘定を除いて解除宣言を行う。
- 金融システム不安の排除のために要する費用は、結局のところ納税者の負担となる。この点はいささかもあいまいであってはならない。このため、
- 投入資金は特別国債の発行で賄う。
- 「特別会計」を設け、透明な経理を行う。
- 貸出債権等の回収の努力を動機づける。
- 2001年をめどに「特別会計」の清算を行い、国民に対して明確な説明責任を果たす。
- 破綻した金融機関の経営者に背任や横領などの違法行為がなかったかどうかを調査する特別の手続きを法によって定める。また債権の回収を円滑に行うため、司法当局の支援も得られる仕組みを工夫する。
- 財政構造改革法との関連については「特別会計」は別枠とする。
- 民間金融機関に対する優先株の取得は原則として行わない。ただし地域金融機関として当該地域においてその存在が不可欠とされる金融機関に対しては政府が事前事後にわたる継続的な説明責任を果たすことを前提として「特別会計」から資本投入をはかることがありうるものとする。
21世紀政策研究所