国際情勢・通商

時事解説「米国の内政と外交~2024年大統領選挙を軸として」<第2回>【西住祐亮 研究委員(中央大学法学部兼任講師)】

西住研究委員

「外交政策をめぐる党内対立と全国党大会」

 

21世紀政策研究所研究委員(中央大学法学部兼任講師)

西住祐亮

 

 今日の米国では、党派対立の先鋭化を意味する「分極化」が大きな注目を集める一方、民主・共和両党内の主導権争いも激しさを増している。こうした党内対立は、特に外交の分野において、大きな意味を持っている(2023年11月2日号既報)。
 24年7、8月には、共和党と民主党がそれぞれ全国党大会を開催した。両党は競うように党内の結束を演出し、かなりの程度それに成功したといえるが、党内対立の火種が消え去ったわけではもちろんない。
 4年に一度開催される党大会では、大統領候補による指名受諾演説や、副大統領候補の指名と並んで、政策綱領の採択に注目が集まる。党の政策綱領は象徴的な性格の強い文書であり、候補者の当選後の言動を拘束する効果は低いとされる。他方、その時点の党の方向性や、党内の意見集約状況を知るうえで、政策綱領は重要な文書であり、特に活動家は自らの主張が政策綱領に盛り込まれることを強く望んでいる。
 さらに24年の共和党政策綱領に関しては、トランプ前大統領がその策定過程に深く関わろうとしたことが注目された。トランプ陣営が政策綱領委員会の人選に深く関与し、綱領の策定過程を厳しく統制したのに加えて、トランプ氏本人も綱領の一部を執筆したというのである。
 振り返ると、近年の共和党政策綱領は、トランプ氏の影響力が着実に拡大してきたことを印象付けるものになっている。政治経験のなかったトランプ氏が共和党の指名を初めて勝ち取った16年の政策綱領は、トランプ氏が賛同しない内容も多く含んでいたが、それでも一定の変化はみられた。外交に関しては、ウクライナ支援に関する記述が、当初考えられていた「殺傷能力のある防衛兵器」ではなく「適切な支援」になったことが、「トランプ色」の表れとして注目された(当時のウクライナはロシアとの東部紛争を抱えていた)。
 トランプ氏が再度指名を勝ち取った20年選挙では、共和党が長年の慣例を破り、新たな政策綱領を策定しなかった。表向きの理由は新型コロナウイルスの感染拡大であったが、真の理由は他にあったと考えられる(党内の反発を警戒するトランプ陣営の思惑など)。
 そしてトランプ氏が三度目の指名を勝ち取った今回は、総じて「トランプ色」の強い政策綱領が採択された。形式面では、ページ数が前回16年の66ページから28ページ(写真だけのページも含む)へと大幅に少なくなった。また中身においては、人工妊娠中絶や同性婚に反対する従来の表現が一部なくなった。外交に関しても、「不法移民の侵略」を阻止するためには手段を選ばず、在外米軍の多くを米国南部国境に移すことも例外ではないとするなど、「トランプ色」を印象付ける表現は多い。
 他方、これをもって、外交をめぐる党内対立が解消されたとみるのは早計である。例えば、ウクライナ問題に関する直接的な表現は、今回の綱領にはない。綱領の分量と具体的な表現を少なくしたねらいとも関係するが、党内で意見が割れる問題を大々的に取り上げたくないという陣営の思いが、背景にあったと考えられる。
 対する民主党にとっての最大の火種はイスラエル問題である。20年の時と同様、党内左派が求めたイスラエルを牽制する表現(今回であれば「武器禁輸」など)は、今回も盛り込まれなかった。
 また、政策綱領以上に注目を集めたのは、会場周辺で行われた抗議活動であった。「1968年の再現」を阻止したい民主党にとって、党内結束の演出と、ベトナム反戦運動を想起させる抗議活動の防止は、党大会の大きなテーマであった。しかし後者については、十分に目的を果たせたとはいえず、党内対立の根深さを改めて印象付けることになった。

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