経済・財政・金融

シンポジウム「中国が抱える諸課題と先端技術を活用した統治」を開催

川島真・東京大学大学院教授

寳劔久俊・関西学院大学国際学部教授

岡嵜久実子・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

益尾知佐子・九州大学比較社会文化研究院 教授

21世紀政策研究所の中国研究プロジェクト(研究主幹=川島真・東京大学大学院教授)は、4月6日、会員企業から約200人の参加を得てシンポジウムを開催しました。中国が抱える諸課題、そしてその対応について分析しました。概要は次のとおりです。

「世界的な穀物価格高騰の下での中国の食料安全保障」(寳劔久俊・関西学院大学国際学部教授)
世界的な穀物価格は2022年後半から落ち着き始めた。今後は穀物価格の中長期的な動向と各国、特に中国、アメリカ、日本も含めた農業構造調整に注視が必要だ。中国では食生活の変化により、食肉消費が増加し、2000年代以降はトウモロコシの増産と大豆の輸入増が続く。中国は95%以上の食糧自給率を提唱してきたが、2014年には穀類の基本自給、主食用穀物の絶対安全という、より現実的な方向に政策を転換している。今後、中国政府は、飼料用原料の確保のため、国内生産と代替飼料の利用を促進し、貿易も柔軟かつ積極的に活用する可能性が高い。

高度成長終焉後の中国経済~金融と財政をどう機能させるのか~(岡嵜久実子・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
中国の金融・財政改革の課題として、金利の市場化をはじめとした市場メカニズム導入のさらなる進展、国有企業改革のための資金供給等の支援、そして、新たな国際ルール作りにおける主導的地位の確保のための金融デジタル化の推進が挙げられる。また、土地使用権譲渡収入に頼っていた地方財政の立て直し、人口減少・少子高齢化への対応、外貨の海外運用を目指した「一帯一路」構想の見直しも課題である。金融と財政の役割分担は、共産党中央と政府からの指令が通りやすい金融への負荷が依然大きいだろう。2023年3月に党の中央委員会に設置された金融委員会の指導に注目したい。

中国共産党による先端テクノロジーの政治利用(益尾知佐子・九州大学比較社会文化研究院 教授)
科学技術により、安全保障と経済社会発展を守り、それらを全て結びつけようとするダイナミズムは、習近平政権の特徴だ。目的の一つは歴史的な使命感だ。資本主義社会の次のフェーズは、中国が中心となった平和的な国際秩序「人類運命共同体」であり、科学技術はそのための推進力であるとの見方だ。もう一つは、安全保障の観点だ。中国が恐れる脅威は、他国だけでなく、国内の不満分子も念頭にあり、ネット統制や監視カメラなどの最新の技術が有効であるとの考えだ。一方、技術を他国に提供し、国際的な仲間づくりにも利用している。中国にとって真の脅威と戦うためは、ロシアとも協力していくということだろう。

<パネルディスカッション>
モデレータを務めた川島研究主幹が、本日の講演を総括し、「3期目の習近平政権での共産党と政府の役割の変容」「課題解決のための制度と法律と実行の関係」「国際的な陣営形成と国際社会へのコミットメントとのバランス」と3つの論点を挙げ、講演者と議論を深めた。また、参加者からの質問として、「科学技術人材の登用成功の秘訣」「習近平のブレーン集団の有無」「食糧自給率があがらない理由」「米中間で穀物輸出制限が起きる可能性」「不動産問題の今後」「中国企業との協業の際のリスク」などがあり、これにそれぞれ講師が回答した。

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