米国

セミナー「米国中間選挙の結果と今後のバイデン政権の方向性」を開催

左上:久保研究主幹、下:前嶋研究副主幹、右上:梅川研究委員

21世紀政策研究所の「米国研究プロジェクト(研究主幹 久保文明防衛大学校長)」は12月13日、オンラインセミナーを開催しました。久保文明研究主幹に加え、前嶋和弘研究副主幹(上智大学総合グローバル学部教授)、梅川健研究委員(東京大学大学院法学政治学研究科・法学部教授)と共に、選挙直後の情勢分析、今後の政権の方向性を展望しました。3氏の発言要旨は次のとおりです。


選挙結果と要因分析

(久保研究主幹) 
ロシアによるウクライナ侵略や国際規範を守らない中国の台頭など国際秩序への挑戦が存在するなかで、今回の中間選挙は、米国のリーダーシップに孤立主義的傾向が強まっていること、国内政治の根源にトランプ前大統領の熱狂的支持層の動向があること、この二つの文脈でみる必要がある。

(前嶋研究副主幹)
中間選挙は「共和党勝利」といえるが、民主党からみれば想定されていた最善の負け方だった。選挙前日のトランプ前大統領の「(11月)15日に重大発表がある」という発言により、民主党支持者の投票率が上がった。出口調査の結果から民主党支持者にとっては、インフレ以上に妊娠中絶が争点であったと分析できる。最高裁に3人の判事を送り、妊娠中絶を非合法にしたトランプ前大統領の復帰を恐れる「トランプ逆効果」があったと考えられる。

(梅川研究委員)
「トランプか否か」を問う演出が前面に出たこと、妊娠中絶の権利を問うドブス判決で49年にわたる伝統的な判例が変更されたこと、この二つの事情により、事前に予測されていた「レッドウエーブ」は起きなかった。共和党は中間選挙を大統領への擬似的な信任投票とする機会を逸し、大勝ちすることはできなかったものの、 さまざまな選挙区で共和党が票を伸ばしていることに注意すべきで、2024年の大統領選挙にも関係してくるかもしれない。今回の中間選挙に関しては分断の行方が一つの関心であったが、その状況は続いていくことになろう。


今後のバイデン政権の方向性と日本のビジネスへの示唆

(久保研究主幹)
バイデン政権は、ウクライナ支援を継続し、議会も協力するだろう。法の支配に基づく国際秩序を維持できるかどうかは24年の大統領選挙に一定度左右される。トランプ氏が再選した場合、米国の民主主義が危うくなり、民主主義国を結集するという、米国の説得力も失われてしまう。日本の安全保障にとっても深刻な問題であり、今後日本として何ができるかを考えていく必要がある。経済安全保障のなかでの同盟国間のサプライチェーンの構築、あるいは日米豪印戦略対話(QUAD)のように、日本が積極的にリーダーシップを果たし、日本の価値を高めていくことが重要である。また、安全保障上重要な技術については、中国やロシアなど国際秩序を力ずくで変更しようとする国に渡してはいけない。経済を含めたグローバリゼーションは転換点を迎えているのではないか。

(梅川研究委員)
選挙の結果により民主党が下院を失い分割政府になったため、国内政治の「立法の生産性」がさらに下がり、今後2年間は法律が通りにくい議会となる。決められない政治が米国の基調となり、バイデン大統領はこれまで以上に大統領令に頼った政権運営をしていくことになる。議会は大統領の権限行使への監視を強めるので両者の対立は深まる。一方、政策が通らない連邦とは異なり、リベラルな州ではリベラルな政策が、保守的な州では保守的な政策がつくられる という傾向が州レベルではみられるだろう。州によって異なる政策が通るので、米国の政策の全体像を把握するのがかなり難しくなると予測される。

(前嶋研究副主幹)
下院では共和党が多数派、上院では民主党が多数派という分割政府がスタートし、物事は決まっていかなくなる。下院では民主党トップ3が若返るが、党内運営や共和党との協議も経験不足で心もとない。共和党と民主党の対立が激化し、ハンター・バイデン疑惑の追及などが出る可能性もあり、最初から波乱含みだ。気候変動対策も止まるであろう。日本の企業にとって、気候変動対策やSDGsへの対応は重要だが、米国では国内政治が止まり、外交的にもPRできない。COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)で、バイデンは演説においてこれまでの成果を強調していたが、今後の話は一切しなかったことが象徴的であった。

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