Ⅰ. 現状

 経済的に余裕のない者に対し、裁判を受ける権利を実質的に保障する制度としては、訴訟救助制度(民訴法82条)と、現在法制化が検討されている法律扶助制度が存在する。

1. 訴訟救助制度

 訴訟救助制度は、経済的に余裕のない国民が訴訟費用の負担に耐えられずに提訴や応訴を断念せざるを得ないおそれがあることから、国が、一定の要件を満たす者について、裁判費用などの支払いを猶予し、その者が勝訴したときには、国が、訴訟費用の負担を命じられた敗訴当事者から、勝訴当事者に払うべきであった費用を取り立てる制度である(※4)。当事者が依頼した弁護士の報酬については訴訟救助の対象とはされていない。なお、支払猶予金の返済免除規定はない。
 事件完結後の精算手続きとしては、東京地裁の場合は、原則的には費用負担者から、一時的には任意納付の方法により、二次的には法律上の決定手続きを経由して回収を図っているようである(※5)
 救助の要件としては、(1)当事者についての資力要件として、a.訴訟準備および追行に必要な費用を支払う資力がない、b.支払いによって生活に著しい支障を生じる、(2)請求についての勝訴見込みに関する要件として、a.勝訴の見込みがないとは言えない、を規定し、救助決定により、申立人は国庫へ納付すべき裁判費用や執行官の手数料などの支払いが猶予される。
 訴訟救助制度の利用状況を見ると、1997年の申立件数は1,623件(簡裁、地裁合計)、付与件数は882件(簡裁、地裁、高裁合計)であった。

2. 法律扶助制度

 法律扶助制度は、訴訟費用以外に着手金・報酬金などの弁護士費用、保全処分等の保証金等を立て替え、弁護士を紹介する制度であり(※6)、法律扶助協会が法律扶助事業を行い、国や地方自治体、日弁連、弁護士会などが同協会に対して事業費を補助するという形で運営されている。そのうち、国庫補助金および償還金は扶助の直接費(立替費用)にのみあてられるものとされており、管理運営費は日弁連、弁護士会、地方自治体および民間からの資金によって賄われている(※7)
 償還方法としては、事件進行中に分割償還する方法と事件の終了後に償還する方法が併用され、後者の場合にも分割償還が可能であり、分割償還が困難な場合には3年を限度とする償還猶予が認められている。生活保護受給者またはそれに準じる者等については償還が免除され、その場合には法務大臣が1件ごとに承認することになっている。
 法律扶助への国庫補助が開始された1958年から1998年度末までの毎年の立替総額の合計に対する同期間における毎年の償還金総額の割合は71.2%、免除率3.5%となっている。
 法律扶助協会では、扶助の要件として、(1)勝訴の見込みがあること、(2)扶助申込者が資力に乏しい者であること、(3)扶助することが法律扶助の趣旨に適すること、を規定している。
 1997年度の法律扶助制度の利用状況は、裁判援助申請件数23,737件、決定件数7,828件であった(※8)

(※4)1998.4.30 伊藤眞「民事訴訟法」p520
(※5)畔柳達雄「民事訴訟法に定める「訴訟上ノ救助」について」リーガルエイドの基本問題 p296
(※6)1997.4.1 法律扶助協会「平成9年版審査業務ハンドブック」p1
(※7)1998.3.23 法律扶助研究会報告書p38
(※8)1998年度は申請件数28,357件、決定件数9,755件であった(1999.6法律扶助協会「平成10年度事業報告書」p16)。