1. はじめに

 国民は等しく裁判を受ける権利を有しているが(憲法32条)、経済的に余裕のない国民に対しても同権利を実質的に保障する必要があるとの考えから、わが国では、1952年に日弁連が中心となって設立した財団法人法律扶助協会が、弁護士会および各弁護士の努力により、経済的に余裕のない国民に対して法律扶助事業を推進してきた。1958年以降は、国も同協会に対して民事裁判を対象に補助金を交付し、1993年からはその補助金の対象を法律相談等にも拡大した。
 その後、法務省では、1994年11月に、同省と最高裁、日弁連、法律扶助協会、法学者で構成する法律扶助制度研究会を発足させ、わが国の法律扶助制度のあり方についての本格的な研究を開始し、1998年3月に報告書をまとめた。(※1)さらに「民事法律扶助法案」(仮称)を来年の通常国会に提出する方針を固めており、新法の来年度中施行を見込んで、来年度予算案の概算要求に、国庫補助金として過去最高額となる22億2,500万円を盛り込んでいる。
 一方、本年7月に発足した司法制度改革審議会(会長:佐藤幸治京大教授)は、11月頃に民事法律扶助制度についての審議を行い、合意が得られれば何らかの提言を行うとしている。
 当研究所ではこれまでも、21世紀社会にふさわしい司法制度の構築に向けて、同分野についても精力的に研究に取り組んできたが、法律扶助制度についても、新しい司法制度全体の枠組みの中で構築されるべきと考え、同制度に対する見解を述べることとした。

 1998年度の法律扶助決定(裁判援助)件数は9,755件であったが、法律扶助制度研究会は年平均42,000件にも及ぶ法律扶助の潜在需要が存在すると推計している。(※2)
 経済的に余裕のない者が、裁判を希望するにもかかわらず、経済的理由から実質的に裁判を断念せざるを得ない状態が存在しているのであれば、国としても、その状態を解消するに足るサポート体制を用意する必要があろう。
 これまでの法律扶助制度充実の論議の多くは、諸外国に比して国庫支出が貧弱であるという指摘であり、国庫補助支出の大幅拡充の必要性を説くものであった。確かに国庫補助支出を拡充し、法律扶助事業資金がさらに潤えば、経済的に余裕のない国民に対し、裁判その他リーガルサービスへのアクセスを容易ならしめる効果は期待できるだろう。
 しかし、同制度の設計如何によっては、扶助利用を濫用されたり、扶助利用者やリーガルサービス提供者側のモラルハザードを引き起こし、いずれ国庫補助金予算の肥大化を引き起こす可能性も拭い去れない。(※3)また、償還免除に相当する債権は別として、償還されてしかるべき債権については回収を強化し、安易に国庫補助で穴埋めすることを避ける方向で考えなければならない。
 そこで、わが国としては、厳しい財政状況のもと、あるべき司法システムの全体像を見据えたうえで、有効かつ適切に機能するようなシステムとして、同制度を司法制度の枠組みの中に組み込むべく設計する必要がある。

(※1)1998.3.23 法律扶助制度研究会「報告書」
(※2)1998.3.23 法律扶助制度研究会「報告書」p19
(※3)イギリスでは、法律扶助制度についての一連の改革にもかかわらず、純支出の増加を食い止めることができずに毎年増加しているため、抜本的な改革が必要不可欠となっている(我妻学「英国の民事法律扶助の現状と改革の動向」(自由と正義1999.6), p53)。