出版物

2009/09/25

中国の外資政策と日系企業

渡辺利夫+21世紀政策研究所監修、杜進編
勁草書房(2009年9月25日発刊)

「外資依存=輸出志向型」発展パターンを修正し、民族企業を中心とした内需主導型の発展を目指す中国ーその政策転換の背景と、日系企業への影響を論じています。

「中国の外資政策と日系企業」について

1985年のプラザ合意以降、日本とNIEs(新興工業経済群)の対中投資を中心とした第1次ブーム、1992年初、当時の最高実力者、鄧小平氏による「南巡講話」によって湧き起こった第2次ブーム、2001年のWTO(世界貿易機関)加盟を前後するころから高揚した第3次ブーム。中国はこれら3つの大波を受けて、世界で最大級の外国企業投資の受入れ国となりました。これら日本に始まり、NIEsを引きつけ、欧米諸国をも巻き込んで累増した外資系企業の対中投資こそが、中国の生産、貿易、資本形成、技術発展に多大な貢献をなし、この国を「世界の工場」へと変じさせたのです。

中国の経済発展パターンを一言で表現するならば、「外資依存=輸出主導型」です。労働力をはじめとする安価な生産要素価格に引き寄せられて、世界の諸企業が中国で操業可能な生産工程を、条件の整った沿海部の発展都市に移管し、そこで生産された最終財や中間財を世界に向けて輸出してきました。中国沿海部に見られるいくつかの巨大な産業集積は、そうして形成されたものなのです。

 しかし、さしもの膨大な規模を誇った労働力や土地も、少なくとも沿海部都市について見れば、「無制限供給」の段階を終えつつあります。2004年に入るころから、農民を中心とした出稼ぎ労働者の確保が困難となり、賃金の持続的上昇を許容せざるをえなくなったという事態がこのことを端的に物語っています。これに応じて、指導部は、中国経済をより付加価値の高い生産・輸出構造へと転じさせ、同時に労働者の待遇改善や所得格差の是正にも乗り出すべきだと考え始めたのでしょう。

 2008年1月の「外資企業税法」や「労働契約法」の施行は、以上のような情勢変化を背景とした象徴的な政策転換でした。つまり、中国の生産要素の価格体系の変化、これにともなう生産・貿易構造の変化、これらを政策的にも保障することにより、民族企業を中心とした内需主導型の発展戦略を描きたいと指導部は考えたということができるでしょう。

 本書は、こうした中国の政策転換の内容とその日系企業への影響について論じたものです。当研究所の昨年の研究成果を土台に、昨年末の北京での中国社会科学院とのワークショップでの議論も踏まえ、杜進教授(拓殖大学)が編集、私が全体を監修しました。執筆には在日中国人研究者7名が当たっています。いずれも在日経験が長く、中国情勢を多角的に論ずることができる識者です。なお、この一部成果をもとに今年3月に開催したシンポジウムには多数の参加者が出席し、改めて中国の「今」に対する関心の強さが実感されました。

 世界同時不況とはいえ、中国が今回の危機で受けた傷は、他国に比べればそれほど深くありません。8%成長への回帰が近々可能となれば、対中進出企業は、中国の政策転換をむしろ新たなチャレンジと見立て、細心かつ大胆な対中投資決定の好機とすべきではないでしょうか。その意味で、本書が、中国の進める政策転換のより深い理解と新たな企業戦略の立案に寄与するものとなれば欣快です。

拓殖大学学長 渡辺利夫(21世紀政策研究所 研究諮問委員)
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