フォーラム「持続可能な新産業創生のシナリオ」
Sustainable Scenario for Creating New Industries

2001年12月12日〜2002年2月22日

概要

 少子高齢社会の中で衰退の道を選ぶことなく社会を維持するためには,高付加価値社会を実現するほか選択肢はない。そしてそのためには,古い秩序から脱皮する痛みに耐え,産業社会の新しい秩序をすみやかに築きあげて行かなくてはならない。
 しかしながら,戦後,米国とは異なる発展経路をたどってきた日本の大学に,米国の大学と同様のイノベーション・シーズ産出を期待することができない。むしろ日本の主たる研究・開発環境を戦後一貫して提供しつづけてきた民間企業の研究所の中にこそ,技術創造の「実行情報」が存在する。したがって産業の垣根を取り払って研究者同士の「共鳴場」を「社会化」するのが重要である(参考「技術創造の社会的条件」1999年10月 21世紀政策研究所提言)。
 にもかかわらず,政府の産業構造改革・雇用対策本部は,2001年6月の「中間取りまとめ」ならびに9月の「総合雇用対策」において,「大学発ベンチャーの創出を加速する(3年で1,000社)」とし,大学に過大に期待する姿勢を見せている。このため,「共鳴場」を「社会化」するプロセスの中で大学が本来果たすべき役割が担えなくなる可能性がある。一方,民間企業の研究所は1990年代後半以来,縮小の道を辿っており,この結果,次世代の産業を興し得る先端技術のシーズが,「死蔵」される可能性が高まっている。独創的な人間がその独創性を発揮しえる場が,いたるところで失われようとしているのである。
 この危機的な状況を打開する方策を模索するために,当研究所ではフォーラム「持続可能な新産業創生のシナリオ」を企画した。みずから創造した技術に基いて企業からスピン・アウトした起業家と大学人,企業の研究所長,ベンチャー・キャピタリスト,そして関係省庁幹部をディスカッサントとして14名招いた。さらに各ディスカッサントには2名までアテンダントをご推薦いただいた。
 こうして,2001年12月12日に「企業における基礎研究は終焉したか?」と題して大企業におけるイノベーション・モデルの変容を,そして2002年1月17日に「大学は1000社の起業を達成できるか?」と題して大学や国研がイノベーションに果たす役割を,歴史を振り返りながら深く議論した。これらの議論を踏まえ,2002年2月22日に「わが国は,ベンチャー起業のインキュベーターたり得るか?」と題して,これからのイノベーションに必須の役割を果たす最先端ベンチャー起業創出を何が阻んでいるか,について徹底討論を行なった。
 本フォーラム開催にご協力いただいた関係各位,特に最後まで丁寧に議事録の校閲の労をとってくださったディスカッサント,アテンダントの方々には,あらためて心から感謝申し上げる。

2002年4月16日
21世紀政策研究所