技術創造の社会的条件

1999年10月6日

要旨

  1. エレクトロニクス産業を中核的な牽引力としてきた我が国の産業構造の将来的な枠組みを再考する上で、インテリジェント技術をはじめとする産業・技術のダイナミクスの変容は、我が国においても技術創造の方法論の変革を迫っている。
  2. 大学からの技術創造を強化するためには、その条件として、知的財産権を大学に帰属・集約させる措置とともに、大学技術移転機関による権利活用に基づく発明者や科学研究への配分規定の整備が必要となる。
  3. それでも、技術特性から考えて、大学技術移転事業の技術創造への貢献は、主として「線形モデル」がまだ成立するバイオ技術等の民間企業への技術移転に限定されると推察される。
  4. 一方、重要な「実行情報」が産業側に存在するインテリジェント技術等は、「基本情報」と「実行情報」の融合によって技術創造が結実すると考えられるため、産学連携は協業の「場」に求められなくてはならない。
  5. この協業の「場」においては、大学と産業とが的確に役割分担した上で、国立大学及び試験研究機関の民間企業への開放・拡充・整備等を通じて研究者の地域的集積を図り、産学研究者の価値基準融合をめざすことが技術創造にとって重要なテーマとなる。
  6. 公的な技術開発支援においては、戦略的かつ自己革新的な目標設定・評価・審査の「重層構造」を持たせた制度導入が必要であり、「権限」と「責任」を持ち、自己規律の契機を内在化させたプログラム・マネージャー制度はその意味で有効な制度と評価される。
  7. 大企業における特許休眠が事業規模による制約である場合、それら休眠特許のライセンスの受け皿は中小・ベンチャー企業となる。しかし、特許実施には発明者に体化した様々な関連情報が必要となるため、必然的に研究者の流動性が求められる。その際、効率的な市場の問題を含め、革新が起こり得る構造を社会に内部化できるかどうかが、技術創造の制度的条件の課題となる。

目次

序論

第1部 技術のダイナミクスの変容

1-1. 20世紀における技術創造の方法論の変遷

  • 1900 - 1945 中央研究所方式の成立
  • 1945 - 198x 線形モデルへの信頼
  • 198x - 1999 新しい方法論の潮流

1-2. 我が国の企業における研究・開発の方法論の変遷

  • 1945 - 198x 「決まった未来」をめざして
  • HEMT ―  転機を作った技術創造
  • 198x - 1999 9年間の科学志向

1-3. 我が国の大学における研究成果の権利化の動向

  • 日本版バイ・ドール法
  • 大学等技術移転促進法
  • 大学における知的財産の権利化の現状
  • 大学における発明報告の義務化の必要性

第2部 New Institutionsの構築に向けて

2-1. 技術創造の条件

  • 産学の「共鳴場」の必要性
  • 大学等研究施設の民間利用促進
  • 大学の主体的運営の必要性

2-2. 評価システムの条件

  • 自己革新の契機の必要性
  • プログラム・マネージャー制度
  • 科学・技術行政の改革の必要性

2-3. 産業創造の条件

  • 大企業に眠る知的財産
  • 鍵は大企業研究者のスピン・オフ
  • スピン・オフを阻む法制度

結論

21世紀政策研究所