要旨

  1. はじめに
    • 労働市場と資本市場の活性化につながると期待できる年金改革は、政府が日本経済再生のために切れる数少ないカードのひとつである。
  2. 年金改革をめぐる最近の議論
    • 99年公的年金制度改正は、現行の枠組を維持したうえで、保険料負担の引き上げと年金給付の削減を組み合わせることとなる見通しである。
    • 現在、給付水準の引き下げと基礎年金の財源をめぐって自民党・自由党の協議が難航している。
    • 確定拠出型年金は、2000年度の導入が予定されている。形態としては、個人拠出型と企業拠出型の2種類が導入される。企業拠出型は、現行の厚生年金基金、適格退職年金など、いわゆる3階部分からの移行・上乗せ・新設といった導入形態が想定されている。
  3. 確定拠出型年金導入についての我々の見解
    • 米国ではERISA以降、確定拠出型年金、とくに401Kプランの伸びが目立つ。このことは、米国の労働市場や資本市場の活性化に大きな役割を果たしたといえる。ただ、この背景には、低水準の公的年金と貯蓄という米国固有の要因があったことを踏まえておく必要がある。
    • 日本の確定拠出型年金の企業拠出型は、3階部分に導入されるので、退職金制度と密接な関係をもつ。現在の運用環境のもと確定拠出型年金を導入することは実質的な退職金引き下げを意味するので、労使の交渉は難航しよう。
    • ただし、労使の交渉を乗り越え確定拠出型年金が導入されれば、労働市場の活性化に一定の役割を果たそう。
    • 一方、公的年金と貯蓄の水準が高い日本においては、確定拠出型年金が3階部分に導入されても、年金資産運用におけるリスクの担い手が企業から従業員にかわるだけで、資本市場にあらたな資金が流入するわけではない。米国のように資本市場にあらたな資金が流入して資本市場が活性化するためには、現在修正積立方式で運営されている公的年金の報酬比例部分を積立方式に移行し民営化することこそが必要だと主張したい。確定拠出型年金は、その受け皿と位置づけるべきである。
  4. 厚生年金民営化に関する我々の提案
    • 公的年金を賦課方式(あるいは修正積立方式)で運営するには、どんなことがあってもその時の現役世代で支えるべきだという国民的覚悟と合意が必要である。この観点から、基礎年金は税による賦課方式で、報酬比例部分は積立方式に移行し民営化すべきと考える。
    • その際二重負担の問題が指摘されることが多いが、これは積立方式に移行するしないにかかわらず存在する問題である。真に必要なのは、将来にわたる国民の負担と受益の関係について明らかにし、二重負担の償却原資をどのようにファイナンスするかを議論することである。
    • 我々の試算では、83兆円の交付国債、200兆円の永久国債の発行、および8%程度の消費税率引き上げが必要となる。ちなみに、8%程度の消費税率は2人分の国民年金保険料(この改革により消滅)と同程度の負担である。
    • この案における国債発行は、いわばもともと存在する隠れ債務のオンバランス化にすぎず、金利の上昇によるクラウディングアウトを引き起こさない。
  5. 日本経済再生の構図として
    • 現在の日本経済は、企業や家計部門といった民間部門がバランスシート調整に苦しんでおり、公的部門がその調整圧力を緩和している。
    • 大規模な財政政策と大胆な金融政策がとられているが、金融政策の効果は、金融部門が大量の国債を買う一方で貸出の圧縮を続けているため、限定的なものにとどまっている。
    • 資源の再配置先がマーケットを通じて決定されない公共投資に長期間依存しつづけることは、日本経済の健全性の観点からはプラスといえない。
    • サプライサイドの再編はマーケットを通じておこなわれるべきである。我々の提言する厚生年金の積立方式への移行と民営化をおこなえば、あらたな年金資金が資本市場に流入する。そうなれば、資本市場におけるサプライサイドの再編は比較的円滑に進められよう。たとえば、再編の過程で売り込まれる株式もあろうが、株価が十分調整したと判断された段階であらたな資金による買いが入り、マーケットが崩壊するような事態は避けられる。マーケットの機能が維持されれば、企業は安心してマーケットを通じて資金を調達することができる。

21世紀政策研究所