1. はじめに
ここ数年来、日本経済に暗い影を投げかけていた金融機関の不良債権問題に関しては、本年3月末における大手銀行に対する総額7兆4592億円にものぼる公的資金の大規模投入もあって、ようやく解消の目途がついたかのようにみえる。実際、こうした銀行の資本強化による金融不安の沈静もあり、各種の景気指標においては、日本経済の「変化の胎動」を示す動きが散見される。しかし、日本経済を覆っていた暗雲がこれで一挙に晴れたわけではない。一時的に雲に切れ目が生じただけであり、その向こうには大きな黒雲がなお残っていることを忘れてはならない。
というのも、貸し渋りの解消や企業金融の円滑化を目的として昨年10月以降、政府および日本銀行では積極的な資金供給に努めてきたが、結果として金融における価格メカニズムが壊れてしまい、市場の資金配分機能が有効に作用しなくなるといった副作用が生じている。加えて、一般事業法人の過剰設備、過剰借入、過剰雇用といった、いわゆる「三つの過剰問題」が本年3月ごろから急浮上してきたことからも明らかなように、借り手企業の多くが経営・財務面での困難に直面している。そういった問題に解決の目処が立たない限り、景気の本格的な回復はありえないと考えられるからである。
それゆえ、本稿では、不良債権問題の分析を通じて、わが国の金融が抱える根本的な問題について論じると同時に、金融市場における価格機能を回復させるための方策について検討し、日本経済の再生を図るうえで必要とされる処方箋を具体的に提言することにしたい。