1. はじめに
本年3月の大手銀行15行に対する総額7兆5000億円という巨額の公的資本注入を受け、これまで日本経済に暗い影を投げかけていた金融不安もようやく鎮静化したが、わが国金融機関が預金者や内外の投資家から確固たる信頼を取り戻すまでにはなお至っていない。ここ数年間、銀行界からの解消宣言にもかかわらず、不良債権問題は年を追うごとに深刻化したという経緯に加え、地価の下落を主因として不良債権額が先行き増大するおそれが払拭できないからである。そうしたなか、預金者の間では2001年4月からのいわゆるペイオフ解禁後における資産運用のあり方についての関心が急速に高まっており、大口預金者の間ではとりあえず満期日を2001年3月末以前にとどめるという自己防衛的な動きも台頭しつつある。というのも、預金保険対象商品については元利金とも全額保護するという特例措置の期限が2001年3月末に到来する結果、同年4月1日以降、元本1000万円超の預金については預入金融機関の破綻リスクに晒されることになるからである。
ペイオフの一時凍結という特例措置の解除を憂慮しているのは、預金者や投資家だけにとどまらない。金融界においても一部の中小金融機関を中心として、ペイオフ実施時期の延長を期待する声が聞かれる。というのも、2001年4月以降ペイオフが予定どおり解禁された暁には大手の優良銀行に向かって預金が流出し、資金繰りに悪影響が及ぶ可能性を完全に否定できないからである。政府関係者やエコノミストのほとんどは現在、自己責任原則の確立、市場を通じた金融機関経営者に対する規律づけ機能の強化やモラルハザードの防止などを狙いとして予定どおりペイオフを解禁すべきとしているが、一部にはペイオフが解禁できるまで金融システムの安定性が確保されていないなかで解禁を強行すると逆に日本経済に悪影響が及ぶおそれが強いとして、その延長を求める動きもみられる。
われわれとしては、ビッグバン後の21世紀日本の金融を自己責任原則および市場競争で規律づけられる世界とするためにも、ペイオフは予定どおり解禁する必要があると考えている。そのためにも現在、預金者や投資家の不安心理を払拭のうえ、わが国金融機関および金融システムに対する強い信認を回復することが経済政策上の最優先課題となっている。こうした認識に基づき、本稿では、1990年代半ば以降実施されてきた各種の信用秩序維持策を簡単に振り返った後、今後1年間のうちにどのような施策が必要とされるのかについて分析・検討するとともに、預金者や投資家の信認回復を図るうえで不可欠と判断される措置のあり方について具体的に提案することにしたい。