地域主権の確立に向けた地方自治体の自己改革

1999年02月26日

報告書の作成にあたって

 日本の自治体の全般的な疲弊は明らかだ。新しい試みは世界中で拡がっているにもかかわらず、残念ながら本邦では極端に少ない。たとえばEU(欧州連合)のsubsidiarity(補完性の原理)がある。単一欧州条約で1992年を期して欧州で単一市場をつくることで今世紀は終了するはずであった。ところが、東ドイツの崩壊が突然に起き、ドイツ統一はドイツマルクを消すことでなければ西欧の隣国が承認しなかった。このため単一通貨ユーロの誕生の日程が一挙につくられた。ここで問われたのは個のレベルでの自己規律である。利益の奪い合い、不愉快なものの押し付け合いが一般化するならば、単一通貨のもとでの経済運営はたちどころに崩壊するであろう。

 ここで持ち出された原理が、自らできることはすべて自らが責任を負うという自治の徹底であった。自治体で処理できないものは州に、そこで処理できないものはさらに国へ、そしてさらに調整を要するものはEUへという仕分けである。単一通貨の導入を決めたマーストリヒト条約にsubsidiarityが盛り込まれたのはこのためである。この原則の成立により、南北イタリア、東西ドイツといった一国内の亀裂線の存在も、EUの内部のなかでの新たな視点からの利害調整の可能性に道を開くことになった。欧州委員会のあるブリュッセルには、個々の自治体が自己主張をもって臨むことになった。

 network社会の新たなる形成のなかで、次々と活力のある街をつくり出したのが米国だ。マイクロソフト(シアトル)やコンパック(ヒューストン)が都市形成に影響力を発揮したことはよく知られているが、それ以前にはシリコンバレーがあった。島根県くらいの面積を谷と呼ぶのはわれわれの語感に合わないが、これが他地域にもあふれ出し、シリコンフォレスト(北部カリフォルニア)、シリコンプレーン(テキサス)などが次々と成立した。ジャガイモ畑のアイダホのボエジーもマイクロン・テクノロジー社によって活性化した。デル(オースティン)についても同様なことがいえよう。

 日本ではこの間テクノポリス構想のもとに幾多の街が受け容れをはかったが結果は完全な空振りだった。「霞が関企画」はまるで通用せず、結果として自治体のレベルでも日本の敗戦は明らかであった。われわれは個々の自治体が自らの手で第一歩を踏み出すためには何が必要なのかを探るべく研究会を設置した。手法についての吟味と説明責任という権限と責任についての新たな視点の提示とがとりあえずわれわれの成果である。全国の各地での取り組みと歩みをともにすべく、21世紀政策研究所でも継続的に地域主権の確立にかかわる研究会を持続する決意である。具体的な要望や共通の取り組みについての提案が寄せられることをわれわれは切に望んでいる。

目次

第1章 研究の目的と概要

  1. はじめに
  2. 問題の所在
  3. 研究の目的−自己改革のツールの提案−
  4. 自己改革の必要性と改革の目標(行革の到達点)

第2章 地方行政改革計画

  1. 確かな経営能力−PDCサイクル―の構築
  2. PDCサイクルを機能させる為の評価尺度の導入
  3. 外部チェックの必要性
  4. PDCサイクルを実効に導く2つのツール

第3章 改革提言1−自治経営部局を中心とした新たな経営システムの構築

  1. 住民満足度の向上に向けた行政プロセスの見直し
  2. アウトカムに責任を持つ自治経営部局の創設
  3. PDCサイクルの確立と自治経営部局制度の関係
  4. 導入の際の注意点

第4章 改革提言2−アカウンタビリティ条例の制定

  1. アカウンタビリティの必要性
  2. 事業報告書の作成と公開
  3. アカウンタビリティ条例の制定

第5章 地方行政改革の試金石としてPFI

  1. 「日本版PFI」を巡る議論
  2. 我が国へのPFI導入に際しての課題
  3. PFIと地方行政の経営能力
  4. PFI実施に関わる制度的制約
  5. PFIと地方行政改革

第6章 研究の目的と概要

  1. 自己改革の効果を高める為の内的要件
  2. 改革の効果を向上させる制度改正

最後に

21世紀政策研究所