NGOとODAの連携強化のあり方 −ODA改革の突破口として−
要約

2000年3月

はじめに

 外交政策上の軍事的手段が制約されているわが国では、「非軍事面」での積極的な国際貢献をより効果的かつ戦略的に展開していくことが、安全保障の確保と国際的地位の向上につながる。非軍事的国際貢献の領域での既存の政策手段は、わが国の場合、ODAが中心である。しかし、わが国のODAは、金額的には8年連続世界第一位だが、総合的な援助戦略の欠如、運営の非効率さ、硬直性等問題点が多い。本稿では、非政府部門である国際協力NGOの機能に着目し、ODAの変革の担い手としての可能性について検討する。本論では、次の5つの基本的視点の下に、ODAとNGOの連携強化の方策を議論する。

(5つの基本的視点)

  1. 国際的に評価される非軍事的国際貢献の展開(上位目標)
  2. 組織本位(government activities)から機能本位(民主体)のODAへの変革(目的)
  3. NGOのODAへの本格的な関与の実現(手段)
  4. NGOの自立的発展の促進とアカウンタビリティの向上(手段)
  5. 「シビル・ソサエティ」の発展(並立する目標)
  1. なぜNGOのより深い関与を求めるべきなのか
     NGOがODAを担うべき理由と背景について、次の4点を論じる。第1は、ODAの量的拡大の時代が終焉し、より効果的で低コストのODAを展開する必要性が高まる中で、NGOの役割のポテンシャルが大きい点である。第2は、世界的に援助のニーズの重点が社会開発分野へシフトし、NGOの特性と優位性を活用すべき領域が拡大している点である。第3は、「シビル・ソサエティ」台頭という世界的潮流の中で、NGOのODAへの関与の拡大を通じて、わが国のシビル・ソサエティの発展を促進し得ること、そして、第4に、国益の概念が古典的な狭い領域を越えて拡大し、地球社会規模の市民益の増大をめざすNGOの国際協力と、国益重視のODAが正面対立しなくなりつつあることを論じる。
  2. わが国のNGOの現状評価
     わが国のNGOは、欧米等に比べ、一般に規模が小さく財政基盤も脆弱であり、明日から直ちにODAを本格的に担える状況にはない。また、ボランティア精神が先行し、専門的能力が不十分な場合が多い。最大のネックは資金不足にあるが、同時にNGO従事者が諸外国のように高度な知的職業として認知されていないことが問題である。プロとしての専属スタッフを持続的に育成していく必要がある。NGO間の連携の未発達さも弱体の理由のひとつであり、今後、ネットワーク型NGOの拡充・強化も課題である。
  3. わが国の援助行政当局によるNGO支援策の現状評価
     1989年度にODAの中に「NGO事業補助金」と「草の根無償資金協力」の2つの制度が発足し、以来、主にこの2つの制度的枠組みの下でNGO支援が行われてきた。最近では、援助行政当局とNGOとの定期的な意見交換の場が設定され、また今後5年間の「政府開発援助に関する中期政策」(1999年8月発表)の中でもNGOへの支援・連携強化の姿勢が打ち出されるなど、外務省を中心に行政当局はNGOを重視する傾向にある。しかし、NGOを援助の政策、企画、戦略を協働で構築する対等なパートナーと見なす姿勢からは未だ程遠い。また、わが国の外交政策におけるNGOの戦略的な位置づけが明らかではない。
  4. 政策提言――NGOを主体としたODAの再構築に向けて
    1. 理念・基本原則の明確化:
      わが国のODA政策におけるNGOの戦略的位置づけならびに行政とNGOの基本的な関係のあり方について、その理念と基本原則を明確にし、内外に示すべきである。その際、行政とNGOは国際協力という目標を共有する対等なパートナーである、との認識が重要である。
    2. NGO担当補佐官制度の設置:
      統一的で一貫性のある戦略の下に、行政とNGOの有機的連携が迅速に展開できるよう外務省内の窓口を早急に一本化する必要がある。一本化された窓口が有効に機能するためには、ハイレベルで権限を持つNGO担当補佐官を設置すべきである。
    3. オープン・システムの確立:
      政策立案、企画の段階からNGOが参画できる開かれた政策決定システムを確立すべきである。このためには、「NGO・外務省定期協議会」を、より戦略的な政策検討の場に拡充・強化する必要がある。
    4. 在外公館におけるNGO担当専門官の配属:
      SNGO(南側のNGO)を直接支援しようとする草の根無償資金協力が本来の目的を達成するためには、主要な日本大使館に、現地のNGO事情に精通したNGO出身者等の民間人を、担当専門官として配属すべきである。
    5. 第3者によるNGO評価システムの確立:
      NGO自身の情報公開とアカウンタビリティーを高めるためには、NGOのパフォーマンスに対する評価(事業評価)ならびに組織としてのNGOの格付けが、行政から独立した第3者によって行われる必要がある。
    6. 「チーム・ジャパン」結成への支援:
      難民支援等の緊急救援において、NGOが各種ドナー(行政府、国連機関等)、ビジネス界、学界、メディア等の国内の利用可能なリソースを総動員して、迅速かつ効果的な活動を展開できるようなメカニズムを日頃より確立しておくべきである。
    7. NGO活動ファンドの設置:
      既存の制度の問題点を抜本的に解決し、NGOとODAの連携を本格的に展開するためには、多年度契約方式を導入すべきである。将来的にはその経験と実績を踏まえ、ODA予算の一定割合をイヤーマークすることによって、「NGO活動ファンド」を設置すべきである。

21世紀政策研究所