Respondent
1998.3.5.
カウフマン&クバリッチ・アドバイザーズ
経営部門担当及び投資部門最高責任者
ロジャー・クバリッチ
議長、ありがとうございます。私は、元総理ならびに豊田会長、クラーク理事長と席を共にする名誉に預かり、深謝の意を表します。お招きいただきありがとうございました。
各パネリストの方々から眼識高い挑戦的なプレゼンテーションが提示されました。私にはいずれをも評価することなどできません。ただし、日本の財政改革、日本経済の安定化そして東アジアにおける危機といった相互に内的関連のある難問について、いくつか簡単に所見を述べさせていただきます。これらの問題は共通する重要なテーマで繋がっております。そして共通する重要な打開策でも繋がっています。すべてを完全に解決させうる処方箋を持つ者はいないでしょうが、その土台となるものを見ることはできると私は考えております。
まず東アジアの問題から始めましょう。
第一に、金融危機の誘因となった企業や銀行間の債務があまりにも過大な一方で、自己資本はあまりにも過小にすぎました。
第二に、償還能力に多少の疑問を感じるや否やあまりにも多くの債務を短期にし、それが逼迫をもたらしました。
第三に、外貨債務があまりにも多すぎました。これは、企業や銀行を夢想だにしなかった通貨価値の変動にさらしましたが、為替が変動相場制になったここ4半世紀に他の諸国でも繰り返し発生したことです。
第四に、これら銀行や企業の連結財務状況に関するデータが、データ収集機関によるものにせよ、最終的には政府当局から提供されたものにせよ、極めてお粗末なものでした。例えば、韓国の企業は世界を相手とする直接投資に最も野心的に取り組みしかも成功しております。世界へ飛び出したこれら企業が非常に複雑な金融構造と外貨リスクを創出したのです。しかしながら、残念なことに、そのように重要な問題に関する良好なデータが欠落していました。
第五に、外貨準備とその管理に関するデータも乏しく、一部の中央銀行による外為市場へのドル売りが外貨準備金を大幅に減少させてしまいました。このような取引が公的統計では特定できないということがありました。横行する無謀な外貨準備の管理が最終的に明らかになったことは、市場参加者やG7諸国の役人双方にとっては大変な驚きでした。すなわち透明性の欠如が官民両部門にとってこれら難問の恐るべき部分でもあるのです。
第六に、民間の市場参加者にもIMFにも、リスクに対する認識が不足していました。これは、リスク問題が浮き彫りにされたメキシコの極めて難しい財政危機を経験したばかりだという事実に照らすと、奇妙なことです。
第七に、この問題が昨年の6月から7月にかけてタイを口火に噴出し始めた際に、銀行経営者たちが不可解な、―ともかく私には理解しがたい―、対応をとったことです。彼らは1980年代初期の債務問題からわれわれが得た教訓の多くを見すごしてしまっているようです。ポール・ヴォルカーやアンソニー・ソロモンが当時これらの問題と取り組んでいた頃、私もニューヨークの連邦準備銀行におりました。われわれは、手痛い教訓を学んだと思っておりました。その教訓とは何でしょうか?第一に、政府の信用を守るということです。昨年のアジアにおける金融危機には、それがなされませんでした。第二に、貸し手も借り手も債務構造における基本的変化に順応できるようになるまでの間、無理のない限度で償還期限を延長して時間を稼ぐということです。第三に、債務国、先進工業国およびIMFが共に作業する協力の枠組みが存在することを、民間投資家や格付け機関に納得させるということです。結局こうした対応のどれもがとられなかったのです。そしてしばらくの間銀行は、あたかも全ての問題が簡単にしかも容易に解決されるかのようにふるまっていました。
そのことが私に第八の論旨に帰結させました。それは、残存する短期債務の借り換えは気楽にやれることではない、ということです。債務危機にあるアジア諸国はもはや信用格付け機関から投資適格の格付けから除外されています。従って、各国が短期債務償還の財源の一部として売り出したい思っている国債も多くのポートフォリオからはずされてしまうでしょう。債務危機に瀕するアジアの借入国のドル建て債券はもはや主要な債券インデックスには入っておりません。その結果、こうしたインデックス再建への投資家の実績を模したいポートフォリオは新しい債券に投資することができなくなります。{インデックス債券の投資家たちは、危機前のアジアの巨額な国債発行残高を抱えていました。}さらに、投資適格格付け証券の購入に制限されている積極的なポートフォリオもまた、新しい債券を購入することができなくなります。
ですから私が、IMFやわれわれ政府に加えこれら諸国や銀行にアドバイスできることは「ゆっくり進め」ということなのです。短期債務の大部分は再び包括され信用掛売市場に売り込めるだろうという希望の下に、財政再建のためとはいえ市場をあまりにも多くの債券で溢れるさせるようにしてはなりません。
最後に私は、日本について3点ほど指摘させていただきたいと思います。 まず、日本を米国(ないし中間にあるその他の国々)と比較する場合に、常に私の注意をひく数値があります。それは銀行口座に預けている一般家庭の資産の割合です。米国では、長い間20パーセント以下という低い数値で推移しています。日本でのそれは未だに約60パーセントです。この落差には途方もないものがあります。これは、日本の国民が圧倒的信頼を銀行に寄せている証拠です。しかしこれは、日本国民の皆さんが金融システムの他の分野を信頼していないということでもあり、その結果株式や債券などの市場商品に投資された金融資産のシェアが大きくならないのです。これを変えなければなりません。ビッグバンが成功すれば、銀行預金から他の金融資産への大々的な移動を順調に促すことになるでしょう。日本の賢い銀行は、安全かつ信頼できる方法でさまざまな金融資産を提供する仕組みを練り上げ、そのような計画を進めています。そこでの正しい標語は信頼性です。
活気あるミューチュアル・ファンド(投資信託)産業を日本でも発展させることが最も重要なことです。この国でどれほど急速に投資信託現象が盛り上がったか皆様に思い出していただきたいのです。投資信託は昔からあったものですが、極めて短期間の内に、実際にはここ5年間の内に、急速に人気を博すことになりました。つまり日本は、全体的経済状況がリスク負担投資を促すようであれば、失地を速やかに回復することができるのです。
第二点は、米国は80年代から90年代初頭にいたる銀行問題を単に資本増強だけで解決したのではないということです。これは重要なポイントです。多くの銀行は資本を増強しなければなりませんでした。しかし、銀行の資本増強は必要ではありましたが、それだけでは十分ではなかったのです。同時に必要とされたことは、銀行資産の弱点となった根源への対応です。さまざまな不良資産がすべて棚ざらしなのはなぜか?それは実行された貸付に対する不動産評価額が未だにきわめて低いからです。では、なぜ低いのか?不動産の場合、基本的に日本の相対的経済活動が停滞し、商業ビルのオーナーがこれら建造物の資金繰りのために生じた債務を償還するために可能なレベルまで賃貸料を持ち上げることができるスペースの需要を生み出せていないからです。
ですから日本の金融システムを回復させる過程全体の一部をなしているのが、基礎的資産の強化です。われわれは米国でそれをどのように行ったのでしょうか。その答えは、多様なメカニズムを通して巨額な新規資金の不動産への流入を誘発した、ということです。メリルリンチやジョン・ハイマン率いる組織などの創意に溢れる人々がリスク負担資金の集約に要となる役割を果たしました。総理は、日本の金融システムの近代化に導くさまざまな変革について指摘なされました。おそらく最も重要な変革はリスク負担、とりわけ不動産部門におけるリスク負担に刺激を与えることです。
最後に、私は日本の知友や同僚の多くが金融の規制撤廃に伴うコストについて極端に走っていることについて触れたいと思います。おそらく彼らはそれについて、米国が規制撤廃とリストラの過程でどれほどの痛みを負ったか、などと書かれた本から知ったのでしょう。それでもわれわれは何百万もの新しい仕事を創出し、失業率は4.7パーセントまで回復させました。国際比較は完璧ではないと認識した上で、いくつかの数値を見比べることは興味深いことであると私は思いました。米国では、金融システムの規制を撤廃し、大企業の社員を大量解雇した後、金融、保険、不動産グループ、つまりわれわれがFIREと称する分野の米国人労働力に占める割合は5.8パーセントでした。日本と比較すると、同様の産業の割合は4.1パーセントです。
ということは、日本において金融サービス産業に従事する人員の数が多すぎるということにはなりません。実際のところ、日本はその莫大な財力に照らしてみると、この部門における雇用をもっと増やしてもよいのではないか、と主張することもできるほどです。それはどういうことなのでしょうか。おそらく、今日の銀行・保険会社・その他の業種の形態でいえば、雇用は過剰であるということなのでしょう。しかしもし日本が正真正銘規制を撤廃し、リスク負担に刺激を与えれば、そしてもし日本の一般家庭による投資が促進されれば、日本は金融サービス産業の仕事を減らすのではなく、金融関係の仕事を大幅に増やすことにいきつきます。それはなぜかと言いますと、凝ったエコノミスト的用語によりますと、金融サービスに対する所得の需要弾性はプラスであり、実際きわめて高いからです。
従って、日本政府は宮沢総理による素晴らしい提案に着手すべきです。日本は内需を刺激する重要な税改革にこのような行動も含めるべきであり、そうすることで日本の実質資産の価値を押し上げると同時に、日本国民によるリスク負担をいっそう奮起させるための税制構造の改革も容易に進めることができるでしょう。ありがとうございました。