Respondent
1998.3.5.
Global Financial Institutions
会長 ジョン・ハイマン
元総理、議長そしてご来場の皆様、ありがとうございます。本日皆さんとご一緒することができ、大変うれしく思っております。私は豊田会長の処方箋に従って率直に発言してまいります。また私は、元総理の21世紀の日本に対する展望にも強く賛同するものです。ご存知のように、私共の企業はまさに日本で劇的な拡大を遂げたばかりでございますので、元総理のご意見に同感しております。パネルから優れたプレゼンテーションが成されましたが、私に与えられた時間は10分ですので、金融改革の展望に焦点を絞ってお話したいと思います。
他の諸国も程度の差こそあれ日本と同じ問題に直面してまいりました。グリーンバーグ氏は米国の貯蓄融資機関の貸付危機について言及されました。スカンジナビアの金融システムにどういうことが起きたかは、皆さんご存知でしょう。ですから日本だけが特別なのではありません。何が日本特有であったのかといえば、問題を直視するまでに非常に時間を要したということです。日本の金融システムについて、当たりは良くても正確ではない情報が世界中に提供されている間に信用格差が拡大してしまいました。要するに、鹿野研究主幹の優れた分析も本来であれば必要であってはならなかったのです。
さて金融システムに関してですが、グローバルなシステムに組みされたいのであれば、誰もが一定の基本的ルールに従わなければなりません。金融システムに関して国家が口にする上で最も危険な3つの言葉があります。つまり、「We are different.(われわれは異なる。)」です。しかし金融システムに違いなどありません。基本的原則に相違はありません。金融機関の運営方法に違いがあってはならないのです。ですから、最も重要なこと、つまり日本が第一に受け入れなければならない概念とは、元総理やその他の方々がおっしゃられたように、透明性であると私は思います。つまり信用ある国際基準に従って公開された数字が、理解できる正確なものでなければならないということです。例えば、全ての国のあらゆる金融機関に通用する単純な国際的会計基準を作るのです。米国等価のGAAPではなく、国際会計基準は導入されるべきです。われわれは皆そう理解するでしょう。
最近の立法によって正しい構造が形成されたと私は思っております。非常に興味深いものがあります。問題はこのプログラムをどうやって実行に移すのかということです。プログラムを公表するのは素晴らしいことですが、大事なことは実行することです。われわれが言うところの「悪魔は細部に潜んでいる」のです。例えば、以前われわれが読んだ「pre-set competition(お膳立てされた競争)」と題する論文の中に書かれたものと同じ哲学に依存するのでしょうか? ところでこれについては、「最低共通項」という別の言い方があります。そしてこれが日本で大いに行われてきたことです。これらの新しいプログラムは、実行する基準を設定し、透明な政策を打ち出すでしょうか? そしてこれらの基準が公開され、これらの基準の実施を促すような行動の透明性を徹底するでしょうか?
例えば、公的資金投入の枠組みを決める委員会が創設されました。非常に良い考えです。橋本首相は著名人を続々とその委員に任命しました。そこまではよろしい。しかしこの委員会が、まず第1にどのように仕事を進めていくのかについてのルールを作り、そのルールを公開し、委員会がとるすべての行動はそのルールまたは基準に従い、さらにこれらのルールは理解可能であり、国内外の金融業界に明確に説明されなければ、その信用性はやや怪しくなります。第2に、早期是正措置への依存というのは素晴らしい概念です。ではいったいそれは何を意味するのでしょうか? それは個々の銀行の財政の健全性やその強さあるいは弱さについて判断を下すことを意味します。そして皆さんご存知のように、こうした判断の多くの部分は客観的というよりも、主観的なものです。なぜならこの場合、貸付ポートフォリオを見て判断するのですが、貸付ポートフォリオは将来を見越すものであり、基本的に主観的なものであるからです。
金融システムは、過去に基づいてなされた判断のみに頼っているとあまりうまく機能しません。将来の展望について、そしてそれが貸付や貸付ポートフォリオに対してどのような意味を持つかについて、何らかの示唆があってしかるべきです。ですから早期是正措置は大変良い考えですが、大事なのは実行すること、そしてそれがどのように実行されるかなのです。しかし私はまだそれに対する答えを知りません。
米国で貯蓄貸付組合(S&L)がトラブルに陥ったとき、議会はまず問題を閉鎖し、Tier 1に対して資金を投入して問題を是正するという錬金術のような手段をとりました。そして彼らは善意のアイテムをとってそれをマジックのようにTier 1キャピタルに変えてしまったのです。さてここで不動産の実質市場価格について論じてみましょう。日本の銀行が不動産の市場価格をTier 1キャピタルに変えてしまったということは、問題に対する解決法として同じように魔法を使ったような感じがします。不動産の市場価格というものは、市場価格のためのクレアリング・メカニズムがなければ有効ではなく、日本ではどういう理由かわかりませんが、何年もこのメカニズムがなかったのです。何年もです。そしてもし日本に本物の明確な不動産の市場価格メカニズムが存在していたら、不動産価格は「上昇」ではなく、「下降」することは、われわれは皆知っています。
第2に、このことは、日本の銀行が抱えるもう一つの問題をさらにこじらせています。ご存知のように日本では、銀行が実質的な関係のある企業の株を所有するということが、長らく慣行として行われてきました。しかしそれが故に、日本の銀行には、資本が適切かどうかよりも日経ダウ水準に頼るという非常に大きな問題があるのです。銀行家としてこれ以上非合理なことがあるでしょうか? 銀行家が機関を経営する立場にある場合、その機関を安全かつ健全に経営しようと思えば、その機関の資本を守らなくてはならず、資本に対して彼らは責任があります。しかしもしその資本勘定が市場の動向によって左右されるとしたら、資本勘定は銀行の経営能力とは無関係になります。資本勘定は市場の水準と人々の評価によって決まることになります。
ですからこれは現在困難な状況にあります日本の多くの銀行にとって長年ありがたいことでした。これまでのやり方は長い間行われてきたことであり、文化的な問題であることもわかりますが、望ましいことではありませんし、同じことが不動産の市場価格についても言えると私は思います。
ですから私は、根本的なことは、これらのプログラムがどのように実行され、どのようにこれらのプログラムの責任者である政府が過去にとらわれずに正しいことを実施するよう条件づけられるのか、ということであると思います。この場合の正しいことというのは、日本がグローバルな金融システムの一部でありたければ、極めて単純なことですが、グローバルな基盤で金融システムが機能するという意味をさします。 それ以外に代替肢はないのです。
以上が非常に簡潔ですが、私からのメッセージです。最後にニューヨークのタクシー運転手の話で締めくくりたいと思います。これはニューヨークの市長選の前に実際に私に起こったことです。拾ったタクシーの中で運転手と市長選の話になり、誰に投票するかを聞きました。すると運転手は、「私はこれまでずっと民主党支持者できたし、母親も父親も兄弟達もみな民主党に投票してきた」というので、私は彼はてっきり民主党の候補者に投票するものと思い、「それでは君は民主党の候補者のメッセンジャーに投票するんだね」と言いました。ところが彼は、「いや、私はルディー・ジュリアーニに投票する」と言うのです。ジュリアーニは共和党の候補者でした。私は驚いて、それはまたなぜなのか聞きました。すると、「お客さん、時にはこれまでのいきがかりを忘れて正しいことをしなくてはならないものだ」と言ったのです。日本の金融システムの改革過程においても、国家の基準に従って正しいことをしなくてはならないと思います。ご静聴ありがとうございました。