豊田章一郎 21世紀政策研究所会長の中国共産党中央党校での講演について
2001年4月17日
21世紀政策研究所 理事長 田中 直毅
中国共産党中央党校は、幹部党員の研修機関であり、政策形成への影響力が大きいといわれている。当研究所では、知的交流を通じた新たな日中関係のパイプ作りという観点から、約3年間にわたり、中央党校との協力関係強化に努めてきた。この一環として、去る4月10日に豊田会長が中央党校内(北京)で講演をした。研修幹部、中央党校幹部など総勢70名余りが出席した。
豊田会長は「技術創造立国」の重要性を強調し、その経験を生かした対中経済協力の必要性を訴えた。中央党校側からは、「日本の現状、および中国との関わりについて、深く分析し、幅広い見識を示された」との評価をいただいた。本講演は、中国にとって参考となっただけでなく、日本にも示唆に富むものが多いのではないかと思う。
そこで、その全文を掲載させていただくこととした。皆様のご参考となれば幸いである。
21世紀の日本企業のあり方と対中経済協力
21世紀政策研究所 会長 豊田 章一郎
はじめに
尊敬する中国共産党中央党校 鄭必堅(ていひっけん)常務副校長をはじめとするご列席の皆様、本日は、中国共産党幹部の方々を前に、お話する機会を頂戴致しましたことを、誠に光栄に存じております。
本日こうしてお話しさせていただくことになりましたのは、私が会長を務めております21世紀政策研究所が、一昨年の10月に、ここ中央党校でシンポジウムを共催させていただきましたが、その記念晩餐会の場で、鄭必堅先生から、親しくお誘いを受けたことがきっかけでございます。
それからやや時間は経ってしまいましたが、この間、貴国はWTO加盟をほぼ確実にされ、先月開催されました全人代では第10次五ヵ年計画も採択され、グローバル経済の中で、新たな変革を遂げようとされています。この様な重要なタイミングで、その変革を支えておられる皆様と直接お話しができますことは、非常に時宜を得たものではないかと思います。
本日は一時間余りのお時間を頂戴して、「日本の現状とトヨタを含めた日本企業のあり方」、および、「今後の対中経済協力の展望」について、私が日頃考えていること、感じていることなどを、いくつかお話しさせていただきます。
日本経済の現状
さて、いま日本経済が長い低迷を続けていることは皆さんご存知のことと思います。わが国は第二次世界大戦後の国土の荒廃から立ち直り、経済先進国へのキャッチアップに成功し、米国に次ぐ経済大国となりましたが、90年代に入ってからは、バブル経済の後遺症に悩まされ、「グローバル社会」、「高度情報通信ネットワーク社会」などの新しいうねりに対応できず、経済・社会システムの十分な変革を成し遂げることができないまま、現在に至ってしまいました。そのため、メガ・コンペティションの時代にあって、先行きに対する閉塞感、不安感が、いやおうなく強まっております。
その一方で、国民感情的には、現状の生活だけを見れば、必ずしもそう悪くはない、という面もあります。今のままで、ずっとうまくいくことはないだろうとは思いながら、出来れば、問題は先送りにして、なんとなく現状に甘んじていたい、そういう雰囲気が蔓延しているのではないかと、感じております。
このような、閉塞感と安住感が入り混じった状況のまま、ずるずると問題を先送りにしてきたわけですが、既に現在の色々なシステムには行き詰まりが見られますし、さらに、これから、わが国は本格的な少子・高齢化時代を迎えるわけでありまして、これ以上、問題を先送りして、現状に安住することは、日本にとってだけではなく、アジア経済、世界経済への影響・貢献の観点から見ても、許されないのではないかと思っております。
将来のビジョン
いま、こうした閉塞感と安住感を打ち破るために、わが国が最も必要としているのは、目指すべき経済社会の明確なビジョンではないかと思います。目標とすべき理想像を描き、それに向かって一歩一歩努力する、そうしたビジョンが必要なのであります。
私は、経団連の会長を務めておりました1996年の3月に、「魅力ある日本の創造」と題しまして、21世紀の日本が進むべき方向のビジョンを提案いたしました。これは、私が経団連会長としてのさまざまな活動を通じまして、これからのわが国のあるべき姿と、それを達成するための官民の取り組みにつきまして、いろいろと考えてまいりましたことを、まとめ上げたものであります。
その内容について、いちいち申し上げる時間もありませんが、あえて端的に申し上げるならば、規制緩和と市場原理の活用により、真の意味での民間主導の経済を構築すること、行政は民間の活力を引き出す環境づくりに徹し、小さくて効率的な政府をめざすこと、未来を拓く技術開発を推進し、将来に向けた技術立国の体制を固めること、などを提言いたしました。
これらのビジョンは、行政・金融・国有企業の三大改革や市場メカニズムに沿ったマクロ経済調整などの構造改革を進めておられる、貴国の政策課題や戦略とも、ある程度相通ずるものがあるのではないかという気がいたします。
過去のツケの清算は早めに
さて、新世紀の日本が活力をとりもどし、これまで以上に世界に貢献できるような経済社会を実現するためには、どうすれば良いのでしょうか。
先ほども申し上げましたように、わが国では問題がずるずる先送りされ、例えば、金融機関の不良債権ですとか、巨額の財政赤字、少子高齢化を背景とした、年金、医療、介護といった分野での適切な制度設計の問題など、外科的手法が伴うような構造改革問題が山積みであります。
こういった、ある意味では、過去のツケとも言える問題については、その処理のために、倒産の拡大とか、雇用不安とかいった非常に辛い局面が予想されますが、政治のリーダーシップのもとに、出来るだけ早期に、かつ、セーフティ・ネット構築などにより、なるべく痛みを和らげる形での処理が、望まれるのは当然のことと思います。
ITは価値創造の手段
さらに、21世紀の経済社会を考えた場合、新しい産業・雇用の創出による付加価値の創造が大変重要なテーマになってまいります。
わが国の政府は、この点で、ITを重視し、昨年11月に「IT基本戦略」を公表しております。IT革命は時代の趨勢とし、日本がIT革命への取り組みが遅れた原因を、通信事業面での料金も含めた制度的な問題と、書面主義や対面主義による法制度面での問題と指摘し、(1)「超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策」、(2)「電子商取引ルールと新たな環境整備」、(3)「電子政府の実現」、(4)「人材育成の強化」といった四つのテーマの実現に向けて、国家戦略として官民一体となった取り組みを訴えております。
一部には、従来型の公共投資重点志向の域を出ていないのではないかとの指摘もありますが、規制緩和や競争環境整備に真剣に取り組んでいくのであれば、新世紀に相応しい経済社会実現の起爆剤になる可能性もあり、より具体的な政策の立案、実行が期待されております。
しかしながら、ITの技術はあくまで価値創造の手段にすぎず、ITさえ導入すれば、経済再生の特効薬になるとか、打ち出の小槌であると期待し過ぎることは危険であろうと思います。
むしろ、大切なことは、このような新しい技術やソフトウェアを駆使して、どのように新しい付加価値を生み出していけるかであろうと思われます。
「技術創造立国」を目指すことが大切
その意味で、ITを含めた政府の適切な政策も、もちろん必要でありますが、それ以上に重要なのは、われわれ、民間企業がわが国の得意技である、製造技術を一層発展させることをベースとして、「技術創造立国」を目指していくことではないかと考えられます。
製造技術や製造業と申しますと、ITが叫ばれている時代に、油まみれで、スマートではないというイメージを持たれるかも知れません。しかし、製造業は付加価値の源泉であり、製造技術の集積がなければ、新しい技術創造を行うことも困難であります。
例えば、シンガポールや香港くらいの規模であれば、金融や通商だけで経済を成立させるといったことも、あるいは可能だろうと思います。
しかし、不況とは云え世界第2の経済大国、1億人を超える人口を有する、わが国が、サービスやソフト、情報だけで立ち行くことができないことは、どう考えてみても、明らかであると思うのであります。
製造業を主体とした「技術創造立国」こそが、日本再生のための、有効なソルーションとなりうるのではないかと考える次第です。
「技術創造立国」の意味
しかしながら、現在の日本は、過去の技術の改良、改造といった、単純な「技術立国」では、成り立たなくなっています。
日本の高度成長の時代には、国内外の消費者の需要が技術革新を生み、開発投資、生産性向上により、さらに需要を喚起するといった好循環や、需要が企業業績や賃金を引き上げ、雇用を拡大し、さらに需要を喚起するといった好循環、さらには、都市への人口移動、核家族化に伴う世帯数の増加による需要喚起などが相まっていたわけですが、現在では倒産・リストラなどによる将来不安から、消費者心理が冷え込み、需要が低迷しており、その結果、企業業績が悪化し、所得が低迷し、さらに、需要低迷を招くという、いわゆる、デフレ・スパイラルの危機に瀕しております。
しかし、その一方で、グローバルユースに耐える、より高容量の次世代携帯電話の導入を間近かに控え、既に、2000万人以上の人が、携帯電話を通じたインターネットへの接続サービスを受け、日々の生活を構成するに至っています。そういう意味では、消費者心理をうまくつかんだ、新しいブーム、ヒット商品も生まれております。ある意味では、需要のパラダイム・シフトと付加価値の源泉の変化が起こっていると言えるかと思いますが、その変化に的確に対応できた者にとっては、大きなチャンスが広がっているとも言えるわけです。
日本経済は、欧米へのキャッチアップを、おおむね達成し、今や、フロントランナーに変わったのでありまして、これまでのように、欧米から持ってきた技術の改良と応用だけをやっていればいい、というわけにはまいりません。自前で、技術を作り出すしかないわけであります。すなわち、自分自身がフロントランナーとして、技術の新たなフロンティアを創造し、開発していかなければなりません。
「技術創造立国」という目標を達成するためには、単なる「技術立国」ではない、フロンティア創造へのチャレンジ精神が求められるわけであります。
フロンティア創造とは
申し上げるまでもなく、フロンティア創造というものは、単に先端技術の開発ができればそれで良い、ということではありません。
先端技術がもたらすシーズを活用して、それを有益な技術として実用化し、新たな市場を創造できるような、画期的な新製品や新サービスを実現していくことができなければ、いかに斬新な発見や発明であっても、国家や社会、あるいは人類の進歩に寄与することはできません。
すなわち、フロンティア創造とは、先端技術の開発と、その実用化までを包括したものでなければならないのであります。
プリウスの例
自社の話で恐縮なのですが、私は、トヨタ自動車が世界で初めて市販したハイブリッド車「プリウス」の開発は、まさに、この「フロンティア創造」と云えるのではないかと自負いたしております。
ハイブリッド車「プリウス」は、ガソリンエンジンと電気モーターの動力を、組み合わせて、走行するものであります。
これだけを申し上げますと、単なる既存技術の組み合わせに聞こえるかも知れませんが、実際にできあがったハイブリッドシステムは、エンジンとモーター、そしてバッテリーが、精密にコミュニケーションを取り合いながら、常に最適な出力を実現し、通常のガソリン車に比べて、燃料消費量が約2分に1で済む、という、非常に画期的なものであります。
私は、ハイブリッドは、将来には、決して珍しいものではなく、自動車動力の重要な一角を占める、デ・ファクト・スタンダードとなり、大げさではなく、世界を変える原動力となる可能性が、かなり高いと期待しております。
循環型経済社会へ向けてのフロンティア創造
さて、20世紀後半には、世界的に、大量生産、大量消費、使い捨て、の風潮が見られましたが、今後も持続的成長を続けていくうえで、生活や産業から出される廃棄物が、全世界で、特に大都市で、大きな問題になっています。
21世紀の社会では、部品や素材をリサイクルしたり、廃棄する場合でも、自然界で分解し、生態系に影響を与えず、大きなゴミ問題を招かないようにする、といった「循環型経済社会」の実現が求められることになるわけです。
この観点で、農業と工業を結びつけることにより、フロンティア創造に繋がりつつあるものがあります。
また、自社の例になるのですが、トヨタは、サツマイモの品種改良で、収量が多く、通常より約2〜3割多くのデンプンが含まれる品種を開発し、そのデンプンから、土の中で分解するプラスチック原料を、低コストで生産する技術を実用化しつつあります。
すでに、インドネシアのスマトラで、サツマイモ農家の募集も、開始しており、いわば、「畑でとれたプラスチック」が実現するのも、そう遠いことではないと思います。
このプラスチックは、土の中で、水と二酸化炭素に分解され、有害物質を残しませんので、環境にやさしい、21世紀の循環型経済社会にふさわしい技術と、言えるのではないかと思います。
また、日本のある建設会社では、バイオの技術を活かし、プラスチックを葉や茎に蓄える稲を開発しているとのことです。これは、ポリエステルを合成する能力を持つ、微生物の遺伝子を取り出し、稲の遺伝子に移植したもので、このポリエステルはやはり土の中で溶けてしまうそうです。将来的にはユーカリなどの樹木に応用し、そのまま建材に利用しようというわけで、これだと、プラスチック入りで強度が高く、ごみにもならないそうです。
さらに、廃棄物そのものから、エネルギーをつくり出すような研究なども、行われていると聞いております。
こういった従来の枠を超えた取り組みが、次の成長に繋がる突破口になる可能性もあり、まさにフロンティアが目の前に広がっていると言えましょう。
ナノテクノロジーの紹介
さらに、日本が比較的、研究が進んでいると言われる分野に、ナノテクノロジーがあります。これは、100万分の1ミリを単位とするナノメートルという、原子、分子レベルの微細な世界の技術を扱うもので、実用化まで、早くて3年から5年、ものによっては、10年から20年先を見据えた、次世代新技術であります。
この技術開発により、IT機器のさらなる微細化や、新素材の開発、バイオとの連係による高度医療への応用などが考えられており、将来の日本の「技術創造立国」を支える重要な柱としての発展が期待されます。
例えば、日本のある電機メーカーでは、特定の環境下で集合する、という蛋白質の性質を利用し、半導体の加工技術を開発中で、実現すれば、4ナノから6ナノといった超微細レベルでの加工が可能となるそうです。
このように、日本の製造業の技術蓄積は、フロンティア創造の芽を着実に芽吹かせつつあり、日本の将来にも十分な展望が持てるのではないかと確信しております。
今後の対中経済協力の展望
さて、続きまして、「今後の対中経済協力の展望」について、私の日頃感じていることを、若干お話ししたいと思います。
皆様ご存知のように、日本と中国は一衣帯水の隣国であり、政治、経済、歴史、文化などあらゆる面において、切っても切り離せない密接な関係にあります。
歴史的に見ましても、古くは、博多湾の志賀島(しかのしま)で発見された、「漢倭奴国王(かんのわのなのこくおう)」と刻まれた金印から、すでに1世紀半ばには日中間の交流があったことが窺えますし、中国大陸からの漢字・仏教の伝来、遣隋使・遣唐使の派遣による、律令制度などの、進んだ大陸の諸制度、文化の吸収などにより、日本は貴国から非常に多くのものを学ばせていただいたわけでありまして、大変尊敬に値するものであると思っております。
また、唐の高僧である鑑真和上が、聖武天皇の招聘に応えて、12年で5回に及ぶ航海の中で、両眼失明という困難にみまわれたにもかかわらず、初志を貫き、奈良東大寺にたどり着かれ、その後の日本文化に多大の功績を残されたという歴史的事実は、私ども日本人に深い感銘を与えるものがございます。
また、近年の日中関係は、特に、経済面におきまして、貿易、直接投資、ODAなど、既に非常に緊密な協力関係が築かれていると思います。
ここ数年は、わが国の景気停滞が続き、対中直接投資額には減少傾向が見られましたが、貴国のWTO加盟期待が高まるにつれ、再活性化の動きを示しつつあります。
日中関係は、世界の中でも最も重要な二国間関係の一つであり、仮に関係悪化などということになりますと、日本、中国にとってだけではなく、世界に大きな影響を及ぼしかねません。日中関係の健全な発展は、世界の繁栄にとって欠かすことができないものなのであります。
その意味で、貴国が、WTO加盟を契機として、改革開放を加速し、WTOルールに従って、グローバル社会の一員としての役割を十分に発揮されることになれば、日中経済協力関係も、自ずと促進されることになりましょうし、わが国としても、そういった貴国のご努力に対し、可能な限りの協力を惜しまないのは言うまでもございません。
私は、先に述べましたように、今後のわが国は、21世紀に適合した技術創造立国の道を歩むべきであると考えているわけですが、そうした方向性に立てば、今後の対中経済協力は、日本の技術力や製造業の経験を生かし、環境問題なども視野に入れたものになっていくのではないかという気がしております。
より、具体的には、大きく三つのポイントがあるのではないかと考えております。
対中経済協力の三つのポイント
その第一は、長期的視野に立った産業技術面での協力を一層促進するということであります。具体的には、技術移転や中国投資事業の現地化を積極的に推進することであります。このことを通じて、中国企業の総合力が高められることになりましょう。
第二には、農業開発への協力であります。膨大な人口を有する貴国にとって、食糧自給は大きな課題であり、人口の七割を占める農村経済の活性化は、避けて通れないテーマであろうと思います。従って、食糧の加工、備蓄、流通整備等農業開発方面にも注力することが、中国経済の安定化に寄与することになるのではないでしょうか。
第三には、環境保護対策への協力であります。環境への配慮を前提とした持続可能な経済発展こそが、今後目指すべき方向であろうかと思います。貴国も高度成長を続ける過程で、環境問題は年々深刻さを増していると伺っております。
これまでわが国は、環境・公害問題では、一時深刻な事態に陥りましたが、法整備、省エネルギー、環境設備産業など、官民が一体となり努力した結果、日本の生活環境は大きく改善致しました。また、循環型経済社会への転換に向けての取り組みも始まっております。これらの面で日本経済界の経験や技術が大いに役立つのではないでしょうか。
さらに、これら三つのポイントに加えて、貴国の重要政策である「西部大開発戦略」への協力も、視野に置く必要はあろうかと考えております。しかし、西部地域は、面積が広大で基礎インフラが極めて少なく、投資環境、自然環境ともに大変厳しいものがあります。貴国政府による、インフラ整備、思い切った優遇条件や、支援体制が確立されれば、日本の民間企業も、資源・エネルギー開発や、基幹産業分野での大型・重要プロジェクトなどで、日本の技術的強みを生かす形での、積極的な協力も可能になるかも知れません。
知的所有権尊重の必要性
さて、ここで、日中経済関係を円滑に進め、さらには、貴国がグローバル社会の一員として、順調に発展されるうえで、大切と思われることを一つだけ強調しておきたいと思います。
それは、知的所有権を十分に尊重し、保護していくということでございます。貴国政府も、イミテーションや、コピー商品の撲滅のため努力されているとは思いますが、これまで以上の法整備を進め、同時に、厳格な運用を行うことにより、国際社会の信頼性を、さらに高めていくということが肝要かと考えます。
すでにお話ししましたように、21世紀は、多くの国や企業が、新しいフロンティア創造、先端技術の開発に向けて凌ぎを削ることになるものと思われます。そうした血と汗の結晶である、知的所有権に対しては、当然のこととして、これまで以上に、十分な敬意が払われてしかるべきと申せましょう。
おわりに
さて、最後になりましたが、今回の講演にあたり、中央党校の皆様からは、「トヨタの成功の秘訣も紹介してほしい」とのお話があったとお聞きしております。
率直に申しまして、グローバル競争の中で、トヨタは現在、生き残りをかけた不断の努力を続けているというのが実情でございまして、成功の秘訣などと言われますと面映い限りでありますが、何とか現在までやってこられましたのは、「お客様第一主義」で、常に市場の動きに応え、真面目に「良い品」をつくることに徹してきた賜物ではなかったかと思います。
それが市場に潜むニーズの発見につながり、フロンティア創造のシーズとなってきたのだろうと思います。
さらに、関連する部品メーカーや材料メーカー、及び、販売店などとの、一致団結した協力関係が果たした役割も、忘れてはならないと考えます。
トヨタ自身は、製品の付加価値から見れば、一部をつくっているだけとも言えるわけでございまして、部品メーカーや材料メーカーとの協力関係に負うところが大であります。また、販売の前線で、お客様の声を聞き、的確にニーズを伝えていただける販売店のご協力がなければ、市場に即した開発も成り立たなかったと申せましょう。
またまた手前味噌になりますが、トヨタは中国市場においても、天津の乗用車生産事業、部品生産事業、四川省成都での中型バス生産事業など、お客様の近くで、直にお客様の声を聞きながら、ご要望に応えていきたいと願っております。
まだまだ不十分なところが多いかと思いますが、皆様の叱咤激励をお願いして、私の講演を終えさせていただきます。
長い時間に渡りまして、ご清聴、どうも有り難うございました。