2002/12/6 郵政民営化について (RealPlayer再生)

はじめに

 郵政公社が来年4月から発足するにあたって、全国の郵便局の中でいろいろな動きが出てきているようです。初代総裁に決まりました生田正治さんは、時間をみて全国の郵便局の行脚を始められました。つい先ごろも北陸の郵便局に出かけられました。こういう季節ですから、もう雪が降って、積雪も10センチぐらいあったようです。長靴をご用意されて回られたわけですが、郵便局の一日を知るためには朝一番に出かけたほうがいいということで、朝礼をご覧になったようです。郵便局長も驚いたようです。生田さんがやってきて、朝礼から付き合ってもらったということで、士気が上がることは間違いないでしょう。

 私は郵政民営化論者で、郵政事業は民営化すべきだし、民営化したとしても重要な役割を果たすことができるという立場です。しかし、働いておられる方々がこの問題についてどれだけ説明を受けたのか、あるいはどれだけ納得したのかとなりますと、まだまだ本格的な議論がなされているとは言えないと私は思っています。そういう意味では、民営化論者である私の民営化にかかわる見解も、もっと広く、もっと本格的に展開すべきだと思っています。



郵便事業

 生田さんが郵便局をまわられて、感想を述べられたことが何度かあります。郵政事業に携わっている人達は、一体郵政事業の将来はどうなるのかと、やはり不安なようです。中央ではいろいろ議論が進んでいるようだけれども、実際の地域社会の中での郵便局の役割はどうあるべきか、もちろん合理化の問題はあるわけで、こういう問題に対してどう対処していいのか、広く自分たちの仲間だけ、郵政の仲間だけではなくて、利用者も含めて、あるいは他の事業者とも、膝を交えて議論する機会があればなあと、こういう気持ちを強くもっておられるようです。生田さんが回られるときには、そうした声も拾われることになります。

 それでは、郵政三事業のどこにどういう問題があるのか、生田さんもいろいろ感じられるところがあるようですから、これから指針が具体的に出てくるかと思います。本来の郵政事業のどれが決定的に重要な本体なのか、本務なのか。いろいろ意見がありますけれども、郵政事業の基本が郵便業務であるという理解は世界的にも成立っているように思います。もちろん金融機能がこれにのっかっているというケースは非常に多くあるわけですけれども、基本はやはり郵便だと言っていいと思います。そして郵便の分野は、決して競争力が高いとはいえません。信書の配達にしても、現在の値段は国際的に見ても割高ですし、世界的にこの郵便の世界においても、海外からの競争が次々とやってきていますから、全く従来とは違う手法でもって、この郵便配達にかかわるところも参入を受けるかもしれない。特にいくつかの規制が緩和されるということになりますと、海外勢力も確立した経営手法と新しいネットワーキングの仕組みみを通じて日本のマーケットにやってくるかもしれない。そのときに、日本で提携する相手として、いろいろな配達にかかわるサービスをやっておられる事業者の方がありますので、そこと組めばもっと効率的に事業ができるかもしれない、という可能性があります。そして情報投資をもう少し本格的なものにしますと、この配達のネットワークにさらに付加価値の高いサービスをのっけることができるという、こういう話も出てきているわけです。諸外国ではまさに、そういうテーマが一つひとつこなされようとしています。

 生田新総裁は、この郵便業務のところにおいて、どういう情報投資を行ったらいいのかというテーマに当然携わらざるを得ません。おそらく優先順位の最も高いもののうちの一つが、この郵便事業における情報化武装というテーマではないかと思います。情報化武装というと、いかにも大げさなように聞こえます。私が最近見たケースでご説明します。中国の山東省の農村で、冷凍食品用の野菜、例えばほうれん草が収穫されます。これは有機農法で栽培されています。昨今のように、この本来は有機農法で栽培されているはずの野菜に、ほかのところで作られた野菜が混入するというケースも、いろいろな手違い、あるいは一部に邪悪な気持ちを持った人もいるということもあって、若干起きることがあるようです。このケースを排除するためのモニターが効くといいましょうか、遡及してどこで問題が起きたのか調査できるようになっています。冷凍野菜の中国からの搬出を通じても、梱包やパッキングのときに番号をふることによって、一体どこでどういうかたちでこの冷凍野菜が作られたのか、原料の搬入はどこで行われたのかということを、調査する仕組みがもはや実現しています。

 それでは日本の郵便の世界ではどうかといいますと、そういう情報武装はできておりません。ですから、一体どこで問題が起きたのかを遡って調べることは極めて難しい現状にあります。もし付加価値の高い配達サービスを目指す、もちろんこれは付加価値が高いだけではなく、通常の信書の配達においてもきめ細かい配慮は重要なんですが、とりわけさらに高い付加価値のある配送サービスということを考えますと、情報武装の不足は免れません。そういう意味では、将来の郵便料金、これはキャッシュフローの大きな要因の一つですが、この郵便の量と郵便料金、そしてそのネットワークにどれだけ付加価値の高いものをさらに加えることができるのか、需要家はもっと手の込んだ、あるいは配慮の行き届いたかたちで配送するサービスをどこまで受注できるのか、というテーマが当然あるわけです。ここにおそらく踏み出さざるを得ないのではないかと思います。もしそういう情報サービスを中心として、新たな力をつけることになりますと、どういう仕事がこの郵便局ネットワークにのってくるのかというテーマがあります。これはいくつか考えられると思います。

 現在でも津々浦々に郵便局があります。田舎の郵便局であればあるほど、隣地、隣のところにも土地はありますし、それからちょっとした倉庫を作って荷物の保管等もできます。今、全国サービスを行いたいと思っている事業者は多いわけですが、例えばe-コマースもそうでしょう。注文をとるのは電子媒体でも、現実にお客様の元までモノを運ばなければいけません。ですから、ものを運ぶこと、それにお金の徴収をどういうかたちで行うのかというテーマがあります。おそらく郵便局ネットワークはこういうところでも役割を果たすはずです。そういう意味では、倉庫保管業務というような問題も郵便局の中で処理されなければならないことになろうかと思います。

 そうしますと、情報ネットワークの中に入る、あるいは情報武装を行う場合に、現在の信書や小包だけではなく、さらに大きな、あるいはさらに付加価値の高いものを配送する、あるいは預かっておくという業務もまた重要になるのではないかと思います。そういう意味では、この情報武装は決まりきったといいますか、硬直的な仕組みみであってはならないと思います。現場のいろいろな工夫があって、新しいモノが立ち上がってくるケースもありますし、新しい商品やサービスがのっかる場合もあるでしょう。そういうことも含めて、柔軟なネットワークの組み方、情報ネットワークの組み方をどうやって実現するのかというテーマが、郵政公社発足当初から起きるのではないかと私は思っています。生田正治さんも、この問題を根底的なところから考えたいと思っておられるようです。

 輸送サービスという大きな、世界的な、あるいは日本にも競争的な事業者が多い中において、現在の郵便のネットワークは必ずしも優位性を持っていません。はっきり言いますと、劣後し始めている面があるわけです。そうなりますと、なんとか維持しようと、この分野に新規参入が行われないようにして、しかも料金は高めに維持するという、非常に後退的な姿になってしまいます。これを挑戦的なネットワークに組替えるために、決定的に重要なのは情報投資です。しかもそれは柔軟なものでなければいけない。将来新しいものがのっかったときに、旧来の情報ネットワークが使えないようでは、二重三重の投資になってしまいますから、どうやって基本的な設計を行い、柔軟なものにするのか、このテーマがあります。



郵貯・簡保事業

 郵貯・簡保の問題は決定的に運用の問題だろうと思います。これまで郵政三事業を議論するときに、郵貯・簡保について限度額を付すといういきかたが、必ずしも賛同を得にくかった面があります。これは民営化論者の中でも、そんなに賛同が得られなかったように思われます。いくつかの理由があります。例えば郵貯の限度額は300万円からあっという間に1000万円までになってしまったわけです。例えば非常に利用者の多い分布からみて、350万円カバーできればかなりの人に満足してもらえるということからいきますと、限度額を例えば500万にするということも決してないわけではありません。それに、そのことが利用者の不便を著しく増やすことでもなさそうです。しかしこれまでのところ、預入限度額を下げるという方向は必ずしも大きな声では出てきませんでした。しかしこの運用難の時代を考えてみますと、預入限度額を下げたほうが全体のシステムとして成功的なものになるのではないか、という問題があります。

 それからもう一つは商品設計の問題で、定額貯金の問題があります。これは6ヶ月預け入れればその後は解約自由ですから、自分の預金の選択権が、長くずっと持っていてもいいし、それから必要に応じてある時期以降は解約してもいいと、その割にはつけられる金利が高いなという、利用者にとっては大変便宜の高いものです。ところが、システムとしてこれを維持しようとしますと、運用難の時代に果たしてこれで済むのかという問題があります。生田さんもこの問題は頭が痛いのではないかと思います。ただ、郵政事業に長く携わってきた現役やOBの人達にとっては、定額貯金は昭和16年(1941年)、つまり日本が対米開戦した年に導入されたもので、当時は国民の貯蓄を何とか増やして、戦争体制を構築するということでした。その後も高度成長を実現するために不足する社会的なインフラを、この郵便貯金を通じて、財投会計を通じて作っていくという目的から、この定額貯金の金融商品設計がずっと持続してきています。郵便局といえば定額貯金というふうに思っておられる方も多いわけです。現実に郵貯残高は230兆以上あるわけですが、そのうちの8割を超えるものが定額貯金です。なんていいましょうか、ほとんど一つの金融商品といってもいいし、ブランドといってもいいでしょう。フランチャイズ・バリューという暖簾代に相当するものが郵便局ネットワークにあるとしますと、金融の面では定額貯金によって代表されることになります。

 しかし、この商品設計も新しい時代を考えてみますと、一体だれがこうした運用難の時代に、利用者にとっては大変便宜のあるとはいえ、逆に運用の側から言えば、いつ解約になるかもしれない、流動性問題を常にはらんでいる、そういうものをどうやって有利に運用することができるのか、これはかなり難しい課題と思われます。そういう意味では、こうした商品設計のまま本当にいけるのかという問題があるわけですが、もしこれをなくすとなりますと、今度は看板に相当するものがなくなってしまう。その看板を短期間に用意できるのかという問題がありまして、これも生田正治さんが抱え込まれる課題だと思わないではいられません。



民営化論の前提

 いずれにしろ、郵政民営化も含めて、郵便局ネットワークに活力があることを前提として、始めて議論を現実に展開できるのが民営化論です。疲弊してしまって、全く元気がない状態では、もはや民営化も議論できない。ただ単に縮小するとか、あるいは歴史的使命を終えて退陣を促すということしかできない。民営化も不可能になるケースもあるわけです。これを活力のある状態にして、民営化をいつでも受け容れることができる、もし国会で民営化決議、民営化に関わる法案が通ることになれば、それを喜んで実施できる、そういう活力のある状態にするために、生田さんは今、いろいろな問題を根本に遡って検討され始めているわけです。冒頭で申し上げましたように、生田さんはもう、郵便局を見学し始めています。今はまだ一見学者というお立場でしょう。しかし、数ヶ月のうちに初代総裁になるということから、声をかけられたりして回っておられるわけです。おそらくこういう元気付けと問題点の把握の旅から、根本的な問題がどこにあるのか、それに対する対処のしかたを、総裁に就任される前に、自分なりに絞り込んでおこうというお気持ちが非常に強いのではないかと思っています。

 私は民営化論者として、民営化に伴って一体どういうことがより可能になるのか、公社ではなく民間の株式会社になったときにより付加価値の多い活動をどのように展開できるのか、そのことを考えてみたいと思っています。またそれが広く議論されるような、そういう土壌も用意してみたいと思っています。
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