最近は小泉内閣から安倍内閣への変化の中で何が継承されているのかという疑問が出され、また近頃のように安倍内閣についての支持率が下がってまいりますと、むしろ小泉内閣との差別化といいましょうか、今や安倍内閣は小泉内閣のいろいろなものを捨てて新しいものを見出すべきだという議論さえ出てきています。今日は財政規律の問題と、それから政府のバランスシートをどのように圧縮していくのか、この一点に関して論点を絞り、小泉内閣から安倍内閣への連続性が日本の資本市場において、最低限の政府に対する信頼をつくり上げてきているという経緯について述べたいと思います。
財政規律については、新しい年度の新規国債発行枠を 25 兆円程度に抑制するという方針が出ました。このことについて、安倍首相のコミットメントというものはこの予算編成過程において明確なものでした。そういう意味では財政規律を重んずるということについては小泉内閣も、また安倍内閣も全く同様でありこのことはマーケットにおいてもそう受け止められています。今日は、もう一つの政府のバランスシートという意味で、財政融資資金という、昔は財投と言っていたものなのですが、現在は財投改革を通じまして、財政融資資金という呼び方に変わってきていますが、この推移とそれが及ぼした影響という点から考えてみたいと思います。
小泉内閣が成立したときに、この財政投融資計画に相当するものは既につくられていたわけですが、 32 兆円程度でありました。これが小泉内閣の最後の予算編成では 15 兆円にまで減ったわけですが、今回安倍内閣のもとでの財政投融資計画についてみますと、 14 兆ということで、さらに減額しています。当然こういうかたちで政府の投融資の勘定において、毎年投入するお金を減らすということは、当然戻ってくるものもあるわけですから、残高ベースでみても減少過程に入ってきています。このように政府の投資勘定、政府の保証勘定の傘をすぼめるということになりますと、当然大きな変化がやってくるわけです。
なぜかといいますと、政府が投資をしたり融資をしたりという場合は、民間の場合も同様ですが、この資産勘定には不確定なものがあります。当然これに対してある種の準備金というものを積み立てていく必要があるわけです。しかし、政府の投融資、あるいは保証というものの傘がすぼまってくるということになりますと、ここに準備金として積み上げておいたものがその分だけは不要になるということになります。投融資ですから、金利変動に対応しなければいけませんし、貸出資産あるいは投資ということになりますと、その元本についても、損失を見込んである程度積み立てておく必要があるわけです。それがいらなくなる部分が出てきます。これで、小泉内閣の最後のところでは、不要になったといいますか、過剰な積み立てになってたものから 12 兆円を引き出しまして、これで国債、既発債、既に出されてる国債の繰上償還を行う、買入を行うということになりました。このことによって、いわゆる 2008 年問題と言われてるものが解消したわけです。
この 2008 年問題というのは何かといいますと、システミックリスクに襲われました日本経済、 10 年前のことになるわけですが、 2008 年の 10 年前、 1998 年は非常に特殊な予算編成になりました。 3 度にわたる補正予算の編成が行われまして、例えば 10 年債の発行額は当初に比べておよそ 8 兆円増額いたしました。これによって、 2008 年には 10 年物の国債が多かったわけですが、 2008 年度に償還されなければいけない国債の残高というものが 40 兆円を上回るという状態に一旦は陥ったわけです。 10 年債だけで 40 兆を上回る国債の償還をしなければいけないということになりますと、このときを上手く過ごすことができるのか、大きな返済の山がやってまいりますから、これをどうやってならすのかということになりました。もちろん超長期債を出せばいいではないかとか、あるいはこの 2008 年に償還がこないように中期債等の期日を変えて新発債を出せばいいとか、いろいろな工夫がなされたわけですが、基本的にはこの 2008 年にやってくる 40 兆を超える 10 年債の発行残高をどこかで減らしたいということがあったわけです。
そのための原資があればなあとは誰でも考えるところですが、これが政府の投融資そして保証の傘をすぼめることを通じて実現いたしました。今まで積み上げておいた準備金というものを一旦財政融資資金特別会計に繰り入れまして、そこから国債整理基金のほうにそのまま流すというかたちを通じまして、この買上償還ということが実現したわけです。これによって、 2008 年問題という、少なくとも当事者、日本の財政資金のファイナンスを考えている人たちにとって、あるいは資本市場で働く人々にとってみますと、大きな攪乱(こうらん)が起きるのではないかという心配があったわけですが、この話が消えました。そして、安倍内閣においてもこの政府の投融資、そして政府保証の傘をすぼめるという政策が依然として持続しております。そういう意味では小泉・安倍というのは一体となってこの財政規律の確立に励んでいるということはもう間違いないわけです。
今回それでは、このことがどういうかたちで反映しようとしているのか。私は大変興味深いことが今行われようとしていると考えていいと思います。それは地方向けの財投の繰り上げ償還というものを実質上認めるという措置に繋がったからです。これはどういうことかといいますと、財政投融資というのは国が間に入って自治体とかあるいは公社・公団に対して安定的な資金を有利に融資するという名目だったわけですが、実際には一度決めた約款での利払いというものを下げてもらおうというわけにはいかないわけです。もしこれが民間金融機関からの融資ということになりますと、金利が下がってまいりますと、かつて高い金利で借りてたものを銀行に返済しまして、新規の借り入れをすると安い金利で借りられる。こういうことをやる場合が多いわけです。例えば住宅金融公庫からお金を借りた人たちは当然そういう借り換えをやる。自分たちが持っている住宅金融公庫に対する債務については一括返済してその返済資金を民間銀行からより安い金利で借りるということをやります。ということは、住宅金融公庫に損失が発生いたしますので、これを国家の補助金で埋めるというやり方をずっとやってきたわけです。
しかし、自治体がかつて高い金利のときに借りたものを返そうとしますと、これまではそんなことをしてもらっては困るというので、実際上、保証金を支払わなければいけないことになっていました。保証金まで支払って既に行われた契約をなかったことにして、繰上げ償還するということにいかほどの意味があるのかということになって、自治体からは「中央政府による地方政府いじめではないか」という批判もあったわけです。こういう状態の中で、この特別会計の中でいざという場合の積立金が不要になった、そういう意味において、これを上手く使うということが可能になりつつあるわけです。
従いまして、現在自治体の中で非常に財政収支が逼迫している、借金が多くて本当に困っているというところを重点的に選びまして、しかも金利 5 %以上という借入金がかつて契約したものの中にあるわけですから、金利 5 %以上という地方債については、繰り上げ償還を認めましょう、その代わりそうした自治体は行革推進法を上回るリストラをやって下さい。人件費の削減とか、従業員の純減をはかるとか、行政改革に伴う新規の計画を出して下さい。これを政府がチェックします。行政改革が行われるということが明らかになった場合には、繰上げ償還の場合、これまで保証金を要求してたんですが、この保証金を免除しますということで、行政改革、すなわち国民にとっての将来にわたる負担というものを軽減することとともに、財政の健全化を一歩一歩進めるということが進もうとしています。
これは何を意味するかといいますと、これまで過大に政府が投融資で自らのバランスシートを肥大化させてまいりましたが、政府保証の傘もすぼめるということが実現していく中で、いささかのゆとりが政府部門から出てきた。これを地方行革を行うところに対してインセンティブといいますか、ご褒美として保証金を免除してあげますという、そういう姿に繋がっていったわけです。
これはわれわれ民間人が直接関与している話ではありませんので、遠い話だなあと思い、それは自治体政府と中央政府の話だろう、中央政府が持っている投融資の勘定が増えるとか減るとか、それは俺にどういう影響があるのだ。こういう話というのは常にあるわけなんですが、自治体を含めて財政規律が戻ってくることはわれわれ納税者にとってみますと、長い意味において日本社会の持続性が保証されるということになるわけです。そういうかたちに踏み込んでいくのにインセンティブ、何らかのかたちの割増金といいましょうか、保証金というものが用意できる仕組みになってきたということになります。現在の予算審議の中でも当然この地方自治体向けの財投の繰上げ償還にかかわる保証金免除という問題が取り上げられています。これは財政規律の確立という流れの中で、あるいは政府が持っているバランスシートをすぼめていくという一連の改革の中で、日本社会の持続性が少しずつ確かめられつつあるという、まだこれで十分ではありませんけれども、そういうものとして理解すべきではないかと思います。
小泉政権から安倍政権に変わって、いろいろ安倍政権について人気度といいましょうか、支持率というものが議論されるようになっていますが、われわれにとって何が持続せねばならないものなのかということは明らかにしておく必要があると思います。そしてこの点に関して言えば、安倍内閣の姿勢は全く明白なものであって、財政規律の確立そして政府の一旦持ったバランスシートを圧縮する中で、何とか報奨金等もひねり出すという政策が続いていると考えるべきだと思います。
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