日本列島各地の地域格差の存在が、日本における政策形成の原理というものを歪め始めている可能性があります。そしてこれを是正するためにやはり新しい仕組みが要るのではないかと思っていますので、今日はこの点について述べたいと思います。
日本銀行が金利を引き上げたい、金融正常化になんとかもっていきたいという気持ちと、それから現在の連立与党で 7 月に予定されている参議院選を勝ち抜くためには、政策金利の引き上げは困るという考え方とがぶつかっています。政策にもちろん政治家の影響力が及ぶことは当然なのですが、例えば参議院選を控えてなぜ政策金利の引き上げはだめかということになりますと、多分論理的にはこういう構図になっているのだろうと思います。
今度の参議院選は一人区が 29 あるわけですが、ここでの勝敗がカギを握っていると言われています。東北から始まりまして、四国とか九州といった所がこの一人区として 29 の中に名前を連ねるわけです。当然のことですが経済活動が必ずしも活発でないところが多いわけです。県庁の所在地でも、あるいは県庁の前でも地価はまだ下がっているというのが実態と言ってよいでしょう。そうしますと、そうした経済低迷がまだ払拭しきれていないところにおいて選挙で勝つというのは容易なことではない。これは誰でもわかることです。しかしそこから政策金利を引き上げられては困るというところにいくと、話はちょっと違ってくるのではないかということになるわけです。
現在東京あるいは愛知、大阪では既に地価が上がり始めています。あるいは一部ではバブル現象まで生じ始めている所がありますが、この地域と依然として地価が下落しているその他の多くの地域との間に、どうやって調整を行うのかというテーマがあります。財政調整というふうにこの問題は言われているわけですが、昔からあった話ではあります。例えば昭和 15 年には、戦争態勢の最中ですが、地方分与税というものが設けられました。これは県とか市町村に対して中央で集めたものを分与していく、そういう制度です。尺度としては二つあります。一つはその地域社会がどの程度の担税力、どのくらいの税をいわば稼ぎ出す力があるのか、これを尺度とするということです。もう一つは財政事業がその地域においてどのくらいあるか、この二つを見ながら分与税を考えていくという仕組みです。
現在の各地方に出しています地方交付税交付金と大きくは違わない仕組みが既に入っていました。そして戦後も地方交付税交付金のシステムはもう 50 年以上経っていますので、それなりに定着したというよりは最早牢固として続いているという仕組みです。これは一つひとつの財政需要額を弾き出して、それで足りない部分を足らず前と呼んでいます。足らず前の「前」というのは、一人前二人前という食事のときに呼んでいることで、その足りない分は中央政府からこれを補填するという仕組みでやってきました。しかしこれが硬直化してどうにもならないことはよくわかっているわけです。
他方、東京をとってみますと、税収が大変好調です。どうやら来年度の予算でいいますと、 5 兆円を上回る税収が都税として上がってきそうです。これはかつてのピークであった 1991 年の 4 兆 8 千億円台というところから 10% 近く高いところまで回復してきています。他方国税のほうは、 1990 年度に 60 兆ありましたけれども、新しい予算を見ますとまだ 53 兆円にしかならないということで、そういう意味では 10% 以上のマイナスということになります。都税がなぜそんなに順調なのかと考えますと、それは法人二税、法人事業税、法人住民税が都税の半分くらいを占めていますが、これが好調なのです。なぜかというと世界で活躍しているような企業も東京に本店を置いていますが、本店の所在地においてはこの法人二税が伸びやすいという構図になっているわけです。
他方、そうした世界に羽ばたくような企業をもっていない自治体においては、制度としては法人二税は同じなのですけれども、伸びないということになるわけです。東京の場合はもうある種キャッシュリッチとでもいいましょうか、税収がどんどん上がってくることを背景として歳出のほうについてはどうかなという議論も当然出てくるわけです。当然キャッシュリッチの状態において資源配分が甘くなるということは、企業経営においてもあることで、ついつい無駄が起きるということはあるわけです。まして地方自治体においてはこのことは起きやすい。 2016 年にオリンピックを東京に誘致するという考え方については、もちろん都民の中にも賛成も反対もありますから、これについは一概には言えませんが、ただ背景にキャッシュリッチになってきているということがあるわけです。
ただこの場合東京都の住民が、あるいは東京都の職員、あるいは東京都議会議員が努力したから税収が好調なのかといいますと、それは決してそうではないことは明らかです。たまたま企業の本店所在地が東京にあるということでしかないわけです。このように考えてみますと、何か財政調整として地域社会にバランスをもたらす仕組みが要るのではないかということになるわけです。それからいきますと、だからこそ地方交付税交付金があるではないかということになるわけです。交付税をもらいたいというところは当然ある種財政需要と財政収入との間で経済情勢というのは反映するわけです。しかし交付税の不交付団体、東京都の場合で言いますとこれはいわば上がる分については文句はないだろうということになるわけですから、地方交付税交付金の制度の枠外に立つというのが今日の状態であります。
そうしますと、地方税の偏在をどのように是正するのかというテーマが出てまいります。第二次世界大戦後もシャープがやってきてシャープ税制というのが入ったときがあります。このときにはこの財政調整についても新しい方式が入りました。これは地方財政平衡交付金制度というふうにいわれているのです。いうならば経済活動はいろいろなところで行われる、そこで上がってきたものをプールしてそれを財政調整のために使うという考え方で、この制度が入りました。しかしこの制度が GHQ の影響力がなくなる状態になりますと、地方分与税という戦前にあった仕組みのほうに近づける形で地方交付税交付金制度が導入されて今日まできているということになります。
財政調整をどのような仕組みでやるのか、いろいろな方法があるわけですが、一つの手掛かりとして現在の消費税とりわけ地方消費税の分配の問題を取り上げて考えてみることができるのではないでしょうか。消費税と言いますから何となく消費者が直接負担しているというふうに思うわけですが、ご存知のようにこれは実際上の税を支払っているのは企業なわけです。いうなれば付加価値税という形をとっているわけですから、税の納入者は企業である。そういう意味では消費税のうち地方消費税分は一旦国税として消費税として吸い上げたものを、各自治体に再分配するという形をとっています。再分配するときの一つの原理として消費の水準というものを前提にしてこの配分しているわけです。
わが国の経済活動のうち企業が担うものは非常に強いわけですが、とりわけ海外において利益を上げたものが日本に送金されて、日本で税を納めるという形をとっている企業がたくさんあります。しかもそこが大都会に多く位置しているということになりますと、その部分はプールして日本全国で使うという仕組みを考えたらどうかというのは当然出てくるわけです。ある意味で国税として取った消費税の一部が、地方消費税として自治体に再配分される仕組みに近い、一旦国でプールして配分するというやり方が、現在地方自治体において行われています法人二税との関係で考えられて然るべきではないかと思います。
少なくとも東京で上がった税収は都知事と都議会が全部使えるという形の中で、東京だけが繁栄しそうだあるいは繁栄しているという感じ方、考え方が日本列島の各地に起きているわけです。そのうち理由のあるものと理由のないものの中で、企業が海外あるいは日本列島の各地で儲けたものが本店の所在地のゆえにそこで多く納入されている。とりわけ海外の場合はこれはそれ以外に国内に国内の事業所とか工場とかがあることを理由に分配するということもできなくなっているわけですから、この分については何か考え方があるのではないかということになります。このあたりが整頓されませんと、冒頭で申し上げた金融の正常化を図るという政策に対しても地方自治体における地価の下落、経済活動の低迷ということを理由に待ったがかかる可能性があるということになります。
しかし世界の中では既にあまりにも低金利が長期に続いているがゆえに、リスクに対して投資家が脇を甘くしている。このことによって長い目で資源配分を歪めているのではないか、という考え方が出てきています。そのことの一つの背景として、日本の長期にわたる異常な低金利というものが寄与していることは間違いありません。そういう意味では、国内のみならず海外も含めまして、長期的な資源配分の歪みを是正するには適切な金融政策がとられなければなりません。そのためにも財政調整という形で日本列島の中で問題を少しほぐしておく必要がある。とりわけ海外で法人が上げた収益について、それにかかわる課税のところでプールして平衡交付金として一般的にどういう形でも使えるものとして分けるという手法が必要なのではないでしょうか。
もちろんこのためには自治体におけるガバナンスの問題というのは極めて重要です。自己統治のあり方についてはいろいろな考え方があります。おそらく自治体の能力を向上させる、あるいは自治体が行う行為について本当の意味でのチェックがきく、そういう意味でのガバナンス構造というものを考える上では、道州制をはじめとして現在の地方自治のあり方を根底から変える必要があります。こういうことも含めて、平衡交付金制度による一般財源として、国として吸い上げたものを一定のルールの下に全国に配布するという仕組みが新たに考えられるべきではないでしょうか。
東京に出てきてもう 40 年以上になりますし、東京で住民税を払うようになってもう 40 年になるのですが、現在の東京の税収やあるいは都による規律の歪み、緩みというものをわれわれが目にし始めているという気がします。この点についてはいろいろな意見があると思いますけれど、私は新たにプールして再配分する仕組みを財政調整の名の下に新たに考える時期にきているのではないかと思っています。 |