今日はアメリカと中国との関係を、中国における軍事的能力の拡大との関係で少し考えてみたいと思います。このことはただ単に軍事問題のみならず、アメリカと中国の双方において経済問題をどのように扱っていくのかという問題にも当然関係してくることです。
中国は 1 月 12 日に自国の気象衛星のうち老朽化したものを衛星破壊のミサイルで打ち落としたという事実があります。ただこれが公式的に発表されましたのは、それから 11 日たちました 1 月 23 日だったのです。気象衛星等におきましてももちろん老朽化は起きるわけですから、どこかの時点でこれを処分しなければいけないという問題はあります。しかしこれを宇宙空間において下手に破壊しますと、そこから破片が当然飛び散るわけです。宇宙のゴミは Orbital Debris というふうに普通言われているのですが、この宇宙のゴミがどんどん増えますと、われわれの市民生活にでも、あるいは民間の経済活動にも大きな影響を与えることは当然考えられます。 GPS 等われわれの通信が宇宙を通じていろいろなかたちで経済活動を支えるまでになっているわけですから、宇宙ゴミをどのように発生させないようにするのか、発生するにしてもそれを最小限化するためにどのような努力が要るのかというのは常に論じられてきているところです。
アメリカにおいては当然のことですが、宇宙空間は軍事的に非常に重要だということで、彼らのナショナルセキュリティ、安全保障をどう高めるのかということを常に議論しているのです。その中で、宇宙ゴミの問題は各国間が協調してどのようにゴミの発生を最小化するのかということも、もう 10 年ほど前から何度か原則として掲げてきているわけです。
今回中国が行った気象衛星破壊から発表まで 11 日かかったということは一体何を意味するのかという問題提起が既に幾つか国際社会には出ています。大きく言って二つの論点があるようです。
一つは、中国のいわば衛星破壊というのはこれだけにとどまるのか、もっと大きな宇宙軍拡にかかわる一つのステップなのかという問題です。すなわち、中国は軍事問題についてどのような考え方を持っているのかが傍ではわからないものですから、いろいろな憶測があるわけです。中国はアメリカと並んで宇宙空間における問題を処理すべく戦略的関係に既に入った。だからアメリカを会議の場に引っ張り出して、そこで米中という二つの超大国によって問題を設定し、そして解決の道を探る。そういう腹積もりがあるのでないかといった議論があります。月にロボットを打ち上げて観測させるというプログラムが中国で中長期的な計画として動いていることは既に発表があるわけですが、この話と今回の衛星破壊兵器の開発という問題とはちょっと違うようです。アメリカでも軍事関係者が中国が持っている軍事プログラムが一体いかなるものなのかについて、今後は相当熱の入った議論をするのは間違いありません。
それから、もう一つのポイントとして、この 11 日間発表が遅れたという問題です。宇宙ゴミの発生は明らかにこの衛星破壊によって起きているはずですから、これは世界中の人々に思わざる被害を及ぼす可能性があるわけです。しかも中国はこれは軍事活動ではないということを言っているわけですから、なぜそれを早く国際社会に知らせ、その目的、それから彼らが行ってきた努力について述べなかったのかという問題があります。ここから幾つかの仮説が出てきているわけです。
中国の軍部が行ったと思われる今回の計画について、果たして胡錦濤総書記はどの時点でどういう形で報告を受けていたのかという話です。先進民主主義国においては、選挙で選ばれた政府が軍部を当然のことながら制御しているという意味において、シビリアン・コントロールが徹底しているというのは当然のことなのです。一方中国においては人民解放軍の戦略および今回のような衛星破壊行為というものと、胡錦濤総書記という共産党の体制、つまり政府との間にどういう関係があるのかという問題です。もし胡錦濤総書記が早い時期にこの計画を聞き、そして現実に実験が行われた段階において、どういう国際的なステートメントが必要なのか、それ全体に責任を持っているということならば、 11 日間もなしのつぶてということは信じられないという見方もあります。そういう意味において、中国の内部において人民解放軍を本当にコントロールしているのは一体誰なのかというテーマが改めて出てくるわけです。
21 世紀はどうやら中国やインドの台頭により、少なくとも一国ベースで言うと GDP がかなりの規模になる。ある時点においてアメリカを中国が追い抜くということも考えられますし、その次にはインドがアメリカを追い抜く時期が 21 世紀中にはくるのではないかというのが多くの人の計算であります。そういう意味において、中国が宇宙空間にまで軍事的な意図を持っているとしても不思議ではないという考え方は世界の中で少しずつ広がっているように思います。少なくともアメリカではこの中国の軍事的意図について、 21 世紀の国際社会を展望しようとするとき、その中でも中国の軍事力をどのように位置付けるのか、そのとき米国はどうこれに向かえばよいのか、こういうテーマがあるわけです。
第二次世界大戦後、東西冷戦が続きました。 1980 年代においては、アメリカとソ連という当時の二つの超大国が宇宙空間に軍拡をひろめるという形を通じて、厳しい対決に入りました。これが、今から考えてみると、米ソ軍事対決の最後の局面だったわけですが、結果はソ連が振り切られるようにして経済不振に陥り、過大な軍事力の拡大というものに民間経済、民生が耐えられなかったというのが歴史的な事実になったわけです。しかし 21 世紀の中国はどうやら軍事的な展開を遂げていたとしても、これが民生を根底において覆す、あるいはどんどん悪くしてしまうというものではないという感触になってきています。市場経済がそれなりに浸透したこともあり、中国における民間の富の増産はかなり進むというのが多くの考え方ですから、税収も上がるし、宇宙に軍拡を拡大することも十分あり得るという関係になってくるわけです。
この意図がどこにあったのか。これも憶測に過ぎませんが、日本とアメリカは北朝鮮の核実験等を踏まえましてミサイル・ディフェンスに熱心になりつつあります。日本政府もアメリカとともにミサイル・ディフェンスという形で、飛来するかもしれない弾頭を日本列島に落ちてくる前に破壊するというプログラムに積極的に参加する、コミットメントすると決めてその方向に走っているわけです。今回の中国の衛星破壊兵器の開発状況を考えますと、日米とりわけ日本にとってということかもしれませんが、ミサイル・ディフェンスというのは果たして有効なのかどうかというテーマが改めて出てくるという指摘もあります。それから台湾海峡のことを中国人民解放軍は実際には考えているのではないかという説もあります。これは台湾海峡においてアメリカが何らかの役割を果たすと考えたときに、この衛星破壊兵器というものがあるということは、アメリカの台湾海峡に対するコミットメントの有効性というものを考える上で、なかなか難しい問題を提示します。つまり、中国の軍事力が台湾海峡問題に何らかの形で関係しているのではないかという指摘もアメリカから出ているようであります。いずれにせよ、なかなか不思議といいますか、簡単には説明がつかない議論が出てきたことになります。
ちょうどこの時期はアメリカの中間選挙後、新しい議会構成において議論が始まろうとしています。民主党が共和党を破りましたので、上院下院ともに民主党議会という中で、新たな展開が予想されるところです。通常はこれはブッシュ大統領が大変辛い立場に追い込まれるというふうに総括されてそこで止まるのが普通なのですが、よくよく考えてみますと、民主党支配の議会が中国に対してはかなり厳しい可能性があります。
二つの経路があります。一つは人権問題です。中国の内部における人権問題について極めて強い関心を持っている人たちが民主党の中にはいます。もちろん共和党の中にもいるわけですが、民主党はこの点について決して中国に甘いわけではないという事実があります。もう一つは雇用の問題です。米中の貿易の不均衡は拡大しています。そしてアメリカの中において職場が脅かされ、あるいは労働集約的な製品が入ることによって賃金が上がりにくくなっています。こういう事実があるものですから、労働者の意向を組合が反映しようとし、そして組合との関係で民主党の議員の中には中国の人民元が非常に低く、かつ貿易不均衡が拡大していることに対して苦情を述べる人たちが多いわけです。中国でいかなる経済運営が行われているのか、グローバルに見てこの不均衡はどのように考えればよいのかという公聴会も今後予定されているわけです。
日本とアメリカとの間においても、貿易の不均衡の問題は歴史的にありました。しかしそのとき、日米において日米間を悪くしてはいけないという配慮のもとに動いた人たちはどちらかといえば国防にかかわる業務をしていた人、またそういう視点からの政治家だったというふうにいわれています。日米は軍事的に一体化しているわけだから、貿易不均衡が多少広がっているからといって日本を叩きづめに叩いていれば良いものではないという、安全保障を重視する立場からの論陣が張られることによって日米関係がこれ以上悪化してはいけないというところでどこかに線を引きながら、日米関係全体をマネージするという視点がやはりあったわけです。
今回の中国の衛星破壊兵器の開発状況をみますと、経済的にもまた軍事的にも米中間には共通のものはないということになります。もちろん北朝鮮の核を封じ込めるための六者協議を成功裏に導くためには中国の助力がいるという考え方はアメリカにおいても根強くありますから、米中関係が対立していればよいというだけで全てがくくられるわけではありませんが、しかし二国間関係で言いますとやはり米中関係は相当微妙な問題をこれから抱えることになるだろうというのが私の予想です。米中関係にどのようないわば橋渡しといいましょうか、どういうテーマで議論に橋がかかるのかということは注意深く観察する必要があるだろうと思います。
この米中の関係がもし緊張をはらむということになりますと、日本にとっても情勢は次第に容易ならざるものになっていくと覚悟せざるを得ないわけです。中国に対する観察は、アメリカで今後大きなうねりになるのではないでしょうか。 1990 年ごろまで米ソ関係を勉強していた、いわば冷戦を前提としてアメリカの安全保障を考えていた人たちがその後いろいろなかたちでいろいろな分野に散ったといいますかテーマをみつけていったことはよく指摘されるところなのですが、ここへきて再び中国に焦点を合わせて、安全保障の見地からも、あるいは軍事技術というような点においても、あるいは人権問題というテーマを巡っても、おそらく中国研究のペースは今後中長期的にアメリカで相当上がってくると思われます。日本ではアメリカの研究も中国の研究ももちろん重要なのですが、アメリカの中国に対するそういう研究関心が飛躍的に高まるであろうことが予想されるときにわれわれはどのような視点でこの国際関係の研究を深めていけばよいのか、相当難しい選択にわれわれも迫られるのではないかというふうに思います。
軍事技術にはコメントできる立場ではもちろん私はありませんし、日本はおそらくこの軍事技術ということになりますと、これを正確に評価できる人の数は相当少ないと思われます。今回の問題は中国が気象衛星を落としただけに過ぎないのですが、その前後の関係から考えますと、ただ単に軍が気象衛星を落としたというだけにはとどまらない問題があるという中で、われわれがどのような研究の範囲あるいは深さというものを持てばよいのかということも問いかけているように思います。
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