2005/1/14 迅速な経済統計の整備こそ地域自治の基盤 音声(RealPlayer再生)

 今日は、地方自治体をはじめとしたわれわれが居住するコミュニティの活性化のために、どういうことが必要なのか、どういうインフラが必要なのか、少し議論してみたいと思います。

 税制改革の問題、それから三位一体改革の問題が、ここのところ大きなテーマとなりました。三位一体改革というのは、コミュニティが自分で税源を見出して税金をかけ、コミュニティの住人とともに自分たちの社会を築き上げる、そうした仕組み、システムに移行しようとしているわけです。これが目的です。そのためには中央政府が個々の役所ごとに補助金の供与を決めて、そして全国一律の目標を立ててやる、というような仕組みはもう廃止すべきだということでした。そして手段としては、国税として取っていたものを、地方に対する補助金をカットする替わりに、自治体が自主財源として自分で税金を決め、そして税金の徴収をする。この三位一体改革は西暦2004年度、2005年度、そして2006年度、この三年間にわたって一応の区切りをつける、そういう意味では2006年度には一通りこの税源移譲までを含めて完成形をみる、ということです。

 それではそれに相応しいインフラ整備が行われているのかどうか、という問題になります。税源移譲の問題では最初の2004年度に、所得譲与税というかたちで自治体にお金をまわすことになりました。所得譲与税とは何かというと、これは所得税を国税として取った上で自治体に振り分けるという作業です。従いまして、「税源移譲」ではなくて「税の移譲」でしかなかったわけです。税源移譲というのは、どういう税をどういう税率で取って、それを住民の人たちが、なるほどこの税制の仕組みで自分たちのサービスの内容が改善したと事後的に判定する、ここまでいくのが税源移譲なのです。所得譲与税は徴収する段階でまず国税として取って、これを旧自治省、現在の総務省のいろいろなデータに基づいて自治体に振り分けていくということですから、「税源の移譲」ではなくて「税の移譲」にしか過ぎなかった、ということになります。

 次の問題としては、では2005年度のみならず2006年度では本当に税源移譲は行うことができるのかどうか、というテーマがあるわけです。中央と地方との間には、いろいろな問題が税制についてもありました。法人事業税については、外形標準課税が2004年度から導入されて以降、その内容も変わってきています。現行の仕組みではあまりにも企業に煩瑣な手続きを求めるため改正案が議論されてきまして、今年、2005年の4月1日以降の事業年度からはより簡明なものが行われようとしています。これは課税標準を都道府県ごとにどう振り分けるのかという分割基準の問題です。全国的にビジネスを展開している企業が個々の都道府県に一体どれだけ税金を納めればよいのか、日本全体としてあがるものをどこに割り振るのかという意味では、どこかが増えればどこかが減る、ということになります。この仕組みからいきますと、税源を議論する中で、どうやら東京都に少しお金が集まり過ぎているので、振り分け上東京以外を優遇するということから、この地方自治体ごとの法人事業税の分割基準の見直しがなされたという経緯があります。しかしこの点も、地方に本当に税源が移譲しつつあるのかということになりますと、全国の自治体全体の中での税の振り分けという勘定でしかないわけです。

 そして、コミュニティごとに本当に税金を取る、自分たちで考えて税率も決め、それを支出してサービスの向上に繋げるという一連の過程が設計できるのかどうかという問題があります。国税庁の職員よりも自治体の税金関係の人たちのほうがずっと多いわけですから、そうした新しい税を工夫したりあるいは徴収したり、税に関わるいろいろな紛争をまとめ上げるために、人手に不足しているわけはないのですが、実際のところは、今まで福祉の仕事をしていた、あるいは建設工事を監督していた、という部局の人が、次の瞬間には住民税あるいは法人事業税という分野に配属されるということですから、専門家としての錬度からいくと国税庁のようなわけにはいかないというのが現実です。

 しかしその割には人数が多いし、税を巡る創造的貢献ということからいきますと、少なくともこれまで自治体の税関係者にはその力量はなかったと言えるでしょう。今後、税源移譲を巡って、自治体の税を巡る能力構築がどういうかたちをとるのか問われるところです。もっともよく考えてみますと、自治体の税を議論したり、税の徴収を行ったり、あるいは新しい税率や新税を住民に提案する能力ということになりますと、非常に限定されたものではないかと思います。

 例えば住民税一つをとりましても、現在自分が得ている所得を基準に住民税が納められているわけではなくて、1年前の確定した所得に基づいて自治体から納付を要請されそれを払っている、というかたちになります。1年ずれているわけで、普通の勤務状態のときはこのことはたいして大きな意味はないわけですが、例えば現在のように、失業とかあるいは自分のキャリア形成のために一旦これまでの事業所を離れるということが頻繁になってきた時代を考えますと、この前年の所得に基づいて徴収が行われる住民税というのは、いかにも自分たちの生活のリズムに合わないものです。

 ではなぜ、国税の所得税は現在自分が得ている所得を基に支払われているのに、地方税の住民税は前の年なのかということなのですが、これは通常こういう説明がされます。所得税の場合、給与所得者の場合ですと、源泉徴収義務者である事業所がその年どれだけ税金を納めるのか、そしてどれだけ所得を得ているからこういうことになるのか、国に申告し、年末調整で税額を確定する申告納税方式のため、その年の所得を課税標準にできる。しかし住民税の場合は、市町村が税額を計算、確定する賦課課税方式であり、確定している前年の所得を課税標準として12カ月に割って徴収するというやり方だからこれができない、というのが言い分のようであります。

 事業所にとっては、所得税については年末調整というかたちでの調整も含め、税引き後の所得を勤労している人一人ひとりに渡しているわけですから、同じ作業が住民税についてもできないとは思えないのですが、少なくともこれまで税をどういうかたちで住民の一人ひとりにお願いするのかという観点から真剣な考慮が自治体ごとに行われた気配はないように思います。前年の所得に基づく住民税の支払いという問題の本質にそれがあるのではないかと思います。

 そして更に言いますと、新しい税制が必要なのだとか、あるいはどういう税率に決めるべきだということになりますと、自治体ごと、コミュニティごとの経済活動の水準が一体どうなっているのかということが重要となります。現在、東京以外の所は活力が乏しいということが一般的には言われていますので、それでは自分のコミュニティにおいては新しい企業、新しい事業者、新しい投資をこういうかたちで受け入れたいのだ、自分たちの地域社会の特徴はここにあるのだということを言うためには、経済地図とでもいうべき経済の情勢についての見取り図が要るわけです。

 ところが自治体はこういう経済情報の整備にも十分な力を発揮してきませんでした。日本全体について言いますと、国民経済計算という作業のもとで、国民所得がどのように推移したのかという推計があるわけです。同等の作業は都道府県でも行われていまして、県民経済計算という手続きが行われて自分たちの県の所得がどうなっているのかについての推計手続きはあります。しかしこれは指定統計に入っていないということもありまして、各自治体に任されている面があるわけですが、これを天気図で言えば、どういう気圧配置になっているのかということなのですが、いつのものまで入手できるのかということになりますと、現在只今ですと昨年度のものが入手できないのみならず、その前まで遡ることになります。大雑把に言いますと、2年位前の経済計算しか都道府県ごとには発表されていない、ということになるわけです。

 このことは経済活動を行う事業者にとりますと大変不都合です。例えばある県でどの程度自動車が売りたいか、あるいはプレハブを売れるのか。当然少なくとも都道府県ごとには所得の状況を把握したいところなのですが、2年前のデータしかないということになりますと、明日の経済活動を行うのに現在只今の気象図、気圧配置図がないのみならず、昨日のもない。一昨日の気象地図しかない、という中で明日に向けての投資を事業者が自信を持ってできるのかどうかという問題があるわけです。

 これが海外からの投資を受け入れるということになると、一体どういう説明をしているのかと思うわけです。例えば、欧米の企業に、半導体とか機械部品の工場、あるいはもっと本格的な組立工場を是非私たちの自治体につくって下さい、そのためにはこうこうこういう条件があります、と誘致活動を行う。または、日本で本格的に物を売るための販社をつくるにあたって、是非わがコミュニティを中心にして経済活動、販売活動をして下さい、と呼びかける。そういう場合に、では自分のところの状況をどうやって説明するのか。一昨日の気象地図がやっと仕上がってきた中で、明日の天気予報をやれというのはほとんど不可能なわけです。あまりにも不確実性が大きいのですが、現在の統計整備はまだそのレベルでしかないというのが現状です。

 こういう中で、三位一体改革が2006年度で一区切りだということは、税源移譲というのは一体どの程度のものになるのかということについて、われわれは想像力を働かせる以外にないわけです。残念ながらわが国の政府部門は、中央も地方も、戦略的な意思決定に本当に必要なデータの整備に著しく怠りがあるということになります。われわれはこの税源移譲の問題、あるいは税制改革の問題は、本格的に21世紀の日本を考える上で、あるいは21世紀の自治体、コミュニティを考える上で不可欠だと思うのですが、そのための情報整備の制度、インフラづくりは明らかに遅れています。

 これを一体どうすればよいのか。多分自治体の首長が、自分たちが住んでいるコミュニティを外の社会にアピールするため、それから内部において住民の人々の結束力とか将来ビジョンというものを固めるため、経済統計の整備、経済インフラ向上に本格的に取り組むという決意をして、実現していくしかないのではないか。これはいろいろな方々の協力を得る以外ないと考えますが、しかしそういう整備をするならば随分その自治体のアピール度は違ってくるでしょうが、今までのところそういう首長が未だ十分登場しているとは言えないと思います。少なくとも本欄でどこかの首長を具体的に取り上げ、あの首長はよく頑張っている、この点がよくわかっているし、そのコミュニティにおける能力構築もかなりの程度進んでいる、という紹介もしてみたいと思うのですが、残念ながらそういう事例も私には思い浮かびません。

  そういう意味ではこれからの日本社会を自治体で、コミュニティでできることはコミュニティに任せ、そしてそこで自主性、自立性を発揮してもらおうというためには、関連するデータ整備があまりにも遅れているということに気付かざるを得ません。もちろんこれも広い意味では研究所のカバーする領域ですので、とりあえずはこういう問題があることを示しつつ、関心を持つ首長の決起を促しているわけですが、どうやって具体的な手順に入るのかということは、いろいろな反応がもしあれば、少しずつ案を出してみたいと思っています。