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中国は10月の初めに、国をあげてのお祭りといいましょうか、国全体の祝日に入るとともに、党の人事も行います。それを目指して調整事が進んでいると思いますが、今週になって三つほど大きなニュース、つまり中国で何が起きているのかを推測に足る材料が出ました。
一つは、党中央軍事委員会主席の江沢民氏が自らのポストを退くという、脅しかもしれません、あるいは政権の動きが何かあったのかもしれませんが、そういうニュースが国際ニュースとしてありました。それからもう一つ、経済全般に関わる話なのですが、中国においてついに貸出金利が9年ぶりに引き上げられるのではないか、というニュースも入ってきています。もう一つは、2008年の北京オリンピックの主要会場、メインスタジアムとそれから水泳場なのですが、それを中心にしてかなりスケールを小さくすると、地味なものにすべきだという指示を、どうやら温家宝首相が出しているようだ、というニュースです。
この三つともそれぞれ非常に重い意味があるわけですが、背景にあるのは、中国の改革に対して大変緊張感をもって取り組んでいる現在の胡錦涛・温家宝政権とそれ以前の人達との意識の差とでもいうべきものが、明確に出てきたのではないかと思っています。胡錦涛・温家宝政権にとってみますと、2002年の秋に受け継ぎが終わって、その後いろいろな模索を続けてきているわけですが、現在のバブルといいましょうか中国経済の中において生じている不均衡、これはもう目を瞑っているわけにはいかないというところにきています。
私は中国の現在の一部におけるバブルを次のように表現しています。お風呂があるとします。お風呂の一部は熱くてとても入っていられないという部分がある。しかし同じお風呂の別のところでは、ぬるくてこのまま入っていたのでは風邪をひいてしまう、もっと薪をくべてくれ、というのがある。片方でそういうぬるい湯、片方でとても入っていられないという沸き過ぎた湯、この二つが混じり合わさることなく両方ある、というのが現在の中国経済の現状ではないでしょうか。そして過熱のほうでは、もう素原材料のほうが高くなってしまって、普通の営業からいっても利益が出ない。例えば、アルミ地金の精錬とか、高炉を中心とした一部の新規工場がそうです。原料高、これに対して製品のほうは値崩れを既に始めている、こういう状態です。なぜそんなにも素原材料が上がってしまったのか。アルミについて言えばアルミナ、鉄鋼について言えば鉄鉱石と原料炭なのですが、そうしたものがなぜここまで上がってしまったのか、中国におけるバブルが背景にあるわけです。
他方、湯が依然としてぬるいというふうに考えているといいますか感じているのはその他の分野です。これは労働集約的な製品に代表されるものですが、ここではまだまだ売値が下がり続けていますので、ここで利益を出すのは難しい。ですから、お湯が熱湯になったところでも利益を出すのは難しい、それから依然として製品価格の値下がりが続いている分野でも利益は出しにくい、そういう経済になってしまったことについて、どういうかたちでこれを是正するのか。これが胡錦涛・温家宝政権にとっての課題ですが、この話を詰めていきますと、かなり本質的な議論にならざるを得ないと私は思っています。
どういうことかと言いますと、そもそも熱い部分とぬるい部分が一つの風呂桶の中で両方共存するということは有り得ないわけでして、本来でしたら攪拌といいましょうか、いろいろな経済活動を通じてこの二つを繋ぐ動きが出るわけです。ところが中国の場合は市場形成が十分ではない。それから省ごとの仕切りというものが非常に厳しく現在もある。マーケットというものをつくっていくのは非常に難しいわけです。ではなぜ難しいのか。古い人達の権限の問題もあるのですが、自由に市場をつくるということは、これはマーケット・メイクといいまして、ある値段で売りたいという人がいたら買い続ける、売りたい人、買いたい人に対して必ず対応する主体が必要なわけです。もちろんその都度オークションをやっていればいいじゃないかという議論になるわけですが、そのオークションという場がいつも設定されるわけではなくて、特に市場がまだつくりかけといいましょうか一生懸命つくり込んでいくときには、マーケット・メイクというかたちで自分の腹で売ってくる人に対しては買い続け、買いたいという人に対しては売ってあげるという行為が、やはり必要なわけです。天然、自然に市場というものができるわけではない。
ところがこのマーケット・メイクをやるという場合には、お互いに横に繋いでといいましょうか、同業者が自分たちの業界を確立していくという行為が必要なわけです。これは普通の言葉で言いますと「横議」、横に議論する、縦の議論ではなくて同じ業者が横に結び合いながら議論する、ということです。
日本の幕末では「諸士横議」という言葉がありました。これは、みんなそれぞれの藩に所属していて、藩に対してしか忠誠心を持っていなかったわけですが、これが幕末の天下騒乱時代といいましょうか、あるいは西欧列強の軍事力に触発されて、日本の国をどうしたらよいのか、藩だけにとどまっていたのではどうにもならない、あるいは藩の上級の侍たちだけに任せておくわけにはいかないというので、非常に身分の低い侍階級の人達も含めまして「諸士横議」という状態が起きたわけです。これが国を変える大きな要因の一つだったわけです。中国においても市場をつくり込んでいくということになりますと、この横議という作用がどうしても必要なのですが、これが現在の中国の政治制度からいくと簡単ではないわけです。共産党一党独裁の下でなかなか政治的な、特に既得権を持った人を排除する、あるいはその人達の仕事を結果として奪うようなやり方が簡単にはできないということが、中国におけるマーケットづくりを非常に難しくしているという面があります。
これが熱過ぎるお湯とぬるくて風邪をひくお湯が一つの風呂桶の中に同居している最大の理由だと私は思っているのですが、どうやら温家宝そして胡錦涛両氏とも、この問題についての認識に曇はないようであります。そういう意味では、政治改革が必要なのだ、ということになります。政治改革を唱えますと、今まで禄を食んでいた、既得権を持っていた人達の立場を損なうことは明らかであります。これが党の古参官僚、古参幹部であったり、あるいは軍人であったりするわけです。江沢民前国家主席と現在の胡錦涛・温家宝両氏との関係はどういう関係なのかはそう簡単に推測がきくことではありませんが、ただ言えそうなことは、その周辺にいる人達のグループには違いがありそうです。両方に属するという人も過渡期でありますからいるわけですが、どうやら胡錦涛・温家宝の周辺にいる人達は江沢民の周辺にいる人達よりも世代は若く、新しい時代に中国が突入してきているのでそれにふさわしい制度をつくらなければだめだというふうに考えているようです。
この新しい人達の考え方が今どういうかたちで出ようかとしているかといいますと、われわれがずっと日本で議論してきていますガバナンスという議論に相当するもののようであります。ガバナンスとは、誰が責任を持ちどういう権限のもとで成果に対してどういう評価基準を用意するのか、という問題です。ですから責任ある人が表に出て、権限を行使しつつ、しかもその成果については厳しい評価を受ける、こういう仕組みを中国共産党の党内につくるべきだという主張のようであります。ガバナンス論がついに中国共産党内部に入ったということだと思います。そうしますと党の中央軍事委員会主席が前の総書記だというのは不自然ではないか、という議論はこのガバナンス論からやはり出てきているのだろうと私は思います。そういう意味からいきますとこの秋の人事で江沢民中央軍事委員会主席が辞めるかどうかというのは、中国におけるガバナンスの貫徹という視点からいくと、極めて重い意味をもってくると思います。
そこで今度はマクロの経済政策ということになるわけですが、3月、4月と、今年は相当厳しいバブル経済に対する警告というものを温家宝を中心として中国国民が手掛けてきているわけですが、その後どうやら事態は一進一退ということのようであります。これはどういうことかというと、やはり中央と地方との間にうまく意思疎通ができていないという面があります。中国はいろいろな地域をもった大きな国ですからいろいろな地域的な特徴があるわけです。それぞれにおいて自分たちの成長願望というものを満たしたいいろいろなプロジェクトを次々手掛けているという面があります。これは環境基準を十分満たしていないとか、あるいは農地を転用して工場用地にするとか、あるいはある種の開発行為に入るということが行われているわけです。農地転用についても中国では非常に厳しい基準があるわけですが、それを地方の政府が無視して建設工事をしているということがあるようです。それに対して掣肘を課すようなことが一部では行われているのですが、どうもやはりこれは止まりそうにない。ここにきて8月から9月にかけてまたそれが鎌首を持ち上げ始めたのではないかという報道も一部にはありますので、おそらく北京からしますとこれは今までにはない方法でやらざるを得ないというふうに考え始めた気配があります。
そして中国における消費者物価、これも足し上げていろいろな製品でできているわけですが、7月には対前年比で5.3%まで上がってきました。ここまできますと、今までの貸出金利は低過ぎるということになってくるのだろうと思います。この9年ほどずっと1年ものの貸出金利は5.31%だったと出ています。実際にはどういうかたちでこの資金の貸借契約が行われているのか、もう少し手数料その他がかかっているような気はいたしますが、いずれにしろ発表されているものは5.31%です。ということは、1年前に借りたお金を返すときに5.3%の金利を払うということなのですが、消費者物価の上昇率が5.3%まできているということは、実質借入の負担感からいきますと、金利負担感はないということになるわけです。5.31%の貸出金利を上げざるを得ないのではないかという口実もできたし、それから全体としての引き締め、バブルに対しては金融は効きます、これは世界各国はっきりしていますので金融引締めをやればバブルのほうは抑え込めるので、それを始めるのではないかということです。もしそうなるとしますと、胡錦涛・温家宝政権にとって全く新しい手法でこの一面過熱一面デフレという中国経済に対しての対応を始めるということになります。
もう一つ北京オリンピックなのですが、2008年の北京オリンピックが決まったときには、これはもう中国ナショナリズムの発揚だと、間違いなくそうなるとみんな思っていました。そして中国の中の人達も、北京という場所で新しい建築物が世界に対してこれでもかこれでもかと言って装いを凝らすようにしてこの2008年を迎えるのだろうなと思っていた人が多いわけです。しかし、例えば温家宝首相にしてみれば、既に過熱の問題が起きていて、北京においても不動産開発をはじめとしてオリンピックを行うことがこうした過熱の一要因になっているのではないかという考え方もあります。既に華美を抑えるという抑制路線に入っているときにメインスタジアムであれあるいは水泳が行われる会場であれ、妍(けん)を凝らすようなものを果たして造ってよいのか、とういうのがどうも温家宝首相の考え方のようです。これは地味にいこう、最早中国を世界に売り込むためにオリンピックが必要なわけではない。既に勃興する中国についての世界の関心は明白ですから、北京オリンピックが決まったときとは様子が違う、最早そんな必要はない、じっくり腰をおろしてといいましょうか地味なといいましょうか、長い中国の発展の中でオリンピックの位置付けをすれば良いと、こういう考え方がどうやら表面化しそうであります。このように考えますと、中国と日本との関係を考えるとき、この高度成長といろいろな難しい問題が次々起きる中で格闘している中国、それを胡錦涛・温家宝が代表しているわけですが、この人達とどのようなコミュニケーションを日本として成立させるのかという問題があります。日本政府も本気になってこの問題は考えたほうが良いのではないかというふうに思っています。
この1カ月ほどの間で中国の広東省の珠口デルタ地帯、ここは製造業が中国で最初に立ち上がってきたところなのですが、そこで労働力不足が起きている。例えば四川省からは広東省深センの近くのところに働きに出ていた人が多いと思いますが、その珠口デルタ地帯で働きに出た人達がどうも広東省に行くよりは上海周辺の昆山とか蘇州とか、そういう所に行ったほうが労働条件が良い、賃金が良い、ということで、そちらに流れているという面があります。確かに台湾の企業もこの蘇州とか昆山とかいうこの地域にものすごくたくさん出ていますし、そこではエレクトロニクスあるいは半導体、そういう新しい需要が世界的に広がっている分野における生産機能がものすごく拡大しています。どうやらここの賃金あるいは労働条件のほうが良いという情報が内陸にも拡がっていったようでありまして、これが珠口デルタ地帯の国際的な競争力を今後は損なうかもしれないという議論も起きています。
いずれにしろ今や中国は経済発展の中で質的な変化を遂げようとしてきているわけですから、こうした大きな変化に対応するためには、従来の統制的手法だけではどうにもならない。マーケットを使いこなしていく以外ない。労働市場にしてそうした現象が既に生まれ始めているという現実があるわけですから、こうした変動を重ねる中国に対してわれわれがどのように対応するのか、日本は隣国として中国の経済変動に無縁ではないどころか大きく噛まざるを得ない立場にあります。そういう意味ではこの議論、もう少し日本でも本格的に行われたほうが良いのではないでしょうか。
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