2004/8/20  郵政民営化 ―窓口ネットワークの意味すること― 音声(RealPlayer再生)

 今日は郵政民営化によってこれまで郵政の3事業のそれぞれにどういう緊張関係が生まれるのかということを議論してみたいと思います。

 竹中経済財政諮問担当大臣によりますと、4機能というふうにある時期からこれが変わりました。郵便と郵貯と簡保の他に、窓口ネットワークを担う事業を置いたらどうかという案であります。われわれこれまで郵政3事業のことを議論するのに、これをあまり複雑にするのは好ましくないということから、3事業についてのみ議論をして参りました。従いまして、窓口ネットワークというものを事業形態としてとるということは、これまで正面からは議論してまいりませんでした。しかしいよいよ民営化の具体案が問われるという段階になったわけですから、この窓口ネットワークの機能というものをここで考えてみたいと思っています。

 これまでわれわれがなぜ3事業以外に窓口ネットワークの議論をしなかったのかということは、実際のところは特定郵便局の位置付けの問題が関係しています。特定郵便局は現在全国で19,000個近くあるのですが、そのうち集配局と言いまして郵便の配達の機能をもっているのは、3,560あまりであります。残りの15,300数十という無集配局では郵便の配達は行っていないわけです。従いまして、基本的には郵貯・簡保ということになります。もちろん無集配の特定郵便局に行きましても、切手を買ったり小包を持って行けば小包の受付はしてもらえますけれども、それは他の窓口でも代行出来るような仕事だと考えてよいでしょう。例えばコンビニとかスーパーマーケットの店頭で荷物の受付をしたりあるいは切手を売ったりということは十分可能ですし、ポストを隣に設置するということをすれば実際にそこで投函も出来る。それくらいのことは契約を通じていくらでも増やせるわけです。それではこの無集配の特定郵便局の特徴は何か。もちろん郵貯・簡保ということになるのですが、まず簡保のことを考えてみましょう。

 簡保は保険契約であります。もちろん貯蓄性が極めて高いものについては、貯蓄商品を販売しているというふうに言ってもよいわけですが、保険契約の本来の機能からいきますと、これは保険契約を結ぶことによって、もし事故があった場合に保険金が支払われるという契約内容になるわけです。それでは民間の保険契約も含めて言いますと、保険商品を買いに人は本当に店頭まで出向くのだろうかという問題があります。逆に、保険商品を売る側から言って、店頭にお客さんが来て、保険商品を買いたいと言った場合、これは例えば死亡時に幾らという巨額な債務を保険会社は負うわけですから、それでは店頭に来た人は一体どういう生活をしているのかとか、あるいは保険契約を本当に結んだほうがよいのか、これまで日本の生命保険会社は相互会社方式をとってきましたので、もし保険会社にとって極めて条件が悪いといいましょうか、他の契約者にとって条件が悪い、例えば死期が明瞭になっているという人が店頭に保険商品を買いに来たというときに、そのままそれで保険契約をしてよいのかどうかということは相互会社の規律の問題から言って当然あるわけです。従いまして、一般的に言いますと民間保険会社は保険商品の販売のために販売にまわる人達との間に雇用契約とかいろいろなかたちの契約関係があるわけですが、これは、保険商品を買ってもらうのにふさわしい人を選んで保険契約の販売勧誘をして下さい、ということになっているわけで、飛び込みで店頭に来た人とすぐ契約に入るということは一般的にはなかったわけです。そういう意味では、これまで伝統的に日本の保険契約は保険契約の勧誘をする人達を中心にして行われてきたわけです。

 それでは特定郵便局の無集配局において、郵貯・簡保を扱っているときに、簡保という保険商品をどの程度現実に売れるのか、あるいはそこで店頭ですぐいろいろな背景事情を聞きながら契約に持ち込むことが出来るかどうかと言いますと、これはやはりそう簡単な話ではありません。現実に無集配の特定郵便局の中で、簡保の販売に力をいれているところは決して多くはないというのが、どうも実態のようであります。従いまして、15,000を越える無集配特定郵便局の基本的な機能は郵貯であります。お金を預かる、そして年金とかあるいは公共事業その他の消費者にとって家計にとって利便性のある引き落とし契約を行ういう業務であります。

 この窓口業務の基本が郵貯なのだと考えますと、この3事業のうち郵貯を担当する民営化会社をとってみますと、郵貯の機能を全国的にあるいは地域的に維持するためにどのような店舗配置をすればよいのか、というのは改めて考えてみる必要がでてくるわけです。例えばそれはATMの設置だけで済むのかどうかという問題になります。これは現在コンビニとかスーパーマーケットの店頭でATMの設置が行われることによりまして、個々の民間金融機関との間に口座契約を持っているひとりひとりの預金者はその店頭において利便を得ることが出来るわけですから、同じことがこの株式会社郵貯の店舗政策においても言えるわけです。そういう意味では無集配特定郵便局との契約関係は、株式会社郵貯にとってみますと、これはひとつひとつが経済行為である。利益が出るのかどうか、それが将来性があるのかどうか、あるいは他の手段でもっとコストが安く消費者、預入者に対して利便を提供できるのかどうかというテーマがあるわけです。

 このように考えますと、3事業を考えた場合に無集配特定郵便局の位置付けはぎりぎりのところをかなり議論をし、問題を整理しないと、踏み込めないというテーマになっていたわけです。こういう現実があるものですから、われわれ郵政3事業を民営化するときに3事業をそれぞれに議論しましたが、窓口ネットワークの問題は無集配特定郵便局の存在ゆえにこれは容易なことでは議論は出来ないと控えて参りました。しかし政府はついに郵政民営化を具体的に進めるなかで、窓口ネットワークをひとつの事業会社として独立させるという基本をつくったわけです。これは私の見解によれば、無集配特定郵便局、15,300をどのように位置付けるかを考えたときに、窓口ネットワークを担う会社を例えば郵貯会社と別につくらないと問題の絞込みが出来ないということだったと推測しています。

 それではこの窓口ネットワークを担う会社をつくるとどういうことになるのか。普通郵便局でも無集配局はありますが、全国でも50程度のようですから実質上の議論をする必要はないでしょう。普通郵便局の場合は基本は集配局、郵便を配達する機能を持っているというふうに考えればよいでしょう。現在普通郵便局の集配局は全国に1,260程度あるようですから、1,200あまりの普通郵便局が集配を行い、さらに特定郵便局の一部、3,500あまりの集配特定郵便局が集配を担っているわけです。

 問題はこの15,000余の無集配特定郵便局を窓口ネットワークに所属することにしますと、当然のことですがある種の緊張関係が出てくると思います。すなわち、無集配特定郵便局にとってみますとこれはネットワークとして自立したわけですから、もちろん郵貯の業務あるいは簡保の業務も契約を通じて担うということになるわけです。しかしそれだけでネットワークを生かすことになるのかと考えてみますと、他の民間金融機関の預入あるいは払出についても、これは契約としてとったほうがよいのではないかということは当然出てくるわけです。民間生保との関係においても、もし保険商品を売るというふうに考えてみますと、この窓口ネットワークを担う事業会社は簡易保険を売るだけではなくて、他の民間生保が率先しています保険商品も売ったほうが販売手数料は入るということになるわけです。もしこのように無集配特定郵便局が金融商品を売る、あるいはお金の出し入れのサービスを提供すると考えますと、郵貯・簡保だけではなくて、他の機能も併せ担ったほうが当然経営効率が高まるという問題になるわけです。このように考えますと、今度は事業としての郵貯、事業としての簡保、これを担う株式会社と、株式会社窓口ネットワークとの間には当然緊張関係が生れるということになるわけです。

 問題は、そのように考えますと、どのようなかたちでこの窓口ネットワークをつくりあげていくのか、ということになります。株式会社郵貯は基本的には商品設計を行い、実際の窓口業務は窓口ネットワーク株式会社に委ねるわけですから、いわば企画商品開発業務が株式会社郵貯の基本的な仕事になります。もちろん融資等の資産運用という面でもこの仕事をするわけですが、これもある種窓口ネットワークとの間において得られる情報をどのように処理するのかというテーマになろうかと思います。このように考えますと、本当に全国の郵便局が生きるということになりますと、この窓口ネットワークでどのような機能を担うのか、どのような商品を販売するのか、あるいは顧客からの要望をどのようにして契約を結んだ他の事業会社に伝えることが出来るのか、というテーマになるわけです。このように考えますと、この窓口ネットワークの位置付けは次第に、例えばコンビニとかスーパーマーケット、これらはが委託契約を通じて、本来は商品を販売する機能だったわけですが、そこに荷物の受渡しから始まって、金融商品、あるいは支払いの窓口、預入の窓口機能というものを加えてきたわけですが、こことの間に当然代替関係といいましょうか、競争関係が成立する、ということになるわけです。

 このように考えますと、郵政事業民営化のときに窓口ネットワークを事業会社として別立てにすることを通じて、競争関係を従来の3事業を担ってきた人々に意識してもらうというかたちになります。ただしその場合には、無集配特定郵便局長は国家公務員から現場の営業担当ということになりますし、いろいろな契約の形態があると思いますが、これは営業会社という性格になるかもしれません。それを束ねて窓口ネットワーク事業会社とすると、窓口ネットワーク事業会社とこれまでの無集配特定郵便局長との間に契約関係が交わされるということも当然考えられることになるわけです。そこでネットワークが生きるかどうかということになりますと、この営業能力がどの程度あるのか、お客の要望をどの程度掬い、拾い上げることができるのか、この能力によってネットワークの生き死にといいましょうか、どれだけそれが伸張するだろうかということを考える必要があります。この営業感覚といいましょうか、これが決定的に問われることになります。窓口ネットワーク事業会社を生き生きとしたものにするためには、無集配特定郵便局、あるいは無集配特定郵便局長を取り上げているのですが、このネットワークを生き生きしたものとして、事業会社も評価する、顧客も評価する、そういう関係のものをどれだけつくり込めるのかということになるわけです。

 もしこのネットワークが生きてくる、大変な営業力を持っているし人々の潜在的な需要というものを引き出すのに力があるということになりますと、このネットワークは他の事業会社、株式会社郵貯、株式会社簡保だけではなくて、他の例えば民間金融会社もありますし民間生保もあるでしょう、あるいは年金設計をしている会社もここには入るかもしれませんが、その販売を委託するという業務としてここは生きてくるかもしれません。もっと言いますと、この窓口ネットワークが生き生きとしたものになった場合には、今度は民間生保や民間金融機関の店舗政策あるいは販売政策というものにも大変大きな影響を与えるということになります。これは21世紀の日本における金融の実態を考えて見た場合に、小口金融、個々の消費者、家計との取り引きというこの接触面を一体誰が担うのか。そしてこれまでの民間生保とか民間金融機関にとってみますとアウトソーシングは可能なのかどうか、接客のところで具体的な資金の預け入れや払い出しのところで、どれだけアウトソーシングは可能なのだろうか、またそれを可能にするような情報処理システムとはいかなるものでなければならないのかという、新たなテーマが浮かび上がることになるわけです。

 いよいよこの秋から来年にかけて、この郵政民営化を通じてこれまで郵便局ネットワークと一般的に言われてきたものが窓口ネットワークの事業会社の設立構想のなかで具体的に問われるという局面になるわけです。そしてここが生き生きとしたものにもしなるということになりますと、当然そのことは他の民間会社の流通ネットワークとか窓口ネットワークにも影響しますし、アウトソーシングというテーマが日本で本格的にこの分野で議論されるきっかけになるということになります。もしうまくいけばというふうに考えますと、このことはこれまでの民間生保や民間金融会社の効率化にも大変な寄与をする可能性がある、ということになるわけです。ただしこれは今申し上げましたように、例えば無集配特定郵便局が生き生きとしたネットワークを担うに足るそういう経営実績をあげることが出来るか、またそういう条件があるのかどうか、というのが決定的に問われるわけであります。そういう意味からいきますと、これはこれまでは国家公務員であったということからサービスの拠点としてどれだけ生き生きとしたものになるのかどうか、論ずる視点というものが全く変わるわけです。このことに現在の郵便局ネットワークが耐えられるのかどうかという問題が具体的にこれから問われることになるかと思います。