2003/ 2/14 国際経済秩序を考える視点 (RealPlayer再生)
WTOを巡る環境

 今日はWTOの新多角的貿易交渉(新ラウンド)の開始の問題と、それからわれわれが臨むべき国際経済秩序との関係についてお話をしてみたいと思います。今日から3日間の予定で、東京で主要25カ国による非公式ミニ閣僚会議が開かれます。これは2001年の11月、ドーハで決まった新ラウンドの開始、これを実務化するための非公式な閣僚会議が開かれているということです。今年9月にメキシコのカンクンで閣僚会議が開かれ、こうした新ラウンドに一つのはずみをつけようということになっているわけですが、これはこれとして極めて重要な問題があります。農業とかサービスとか、それから市場アクセスをどのように考えるのか、それから例えば医薬品がつくれない国で感染症、例えばエイズとか結核とかそういう薬を本当に知的所有権に考慮を払って高い値で買わなければいけないのか、こういうテーマもドーハで既に概括的に論じられています。その枠組みを今後つくろうというわけですから、決して疎かにしていいものではありません。

 ただ、WTOに加盟していない国の問題はわれわれはもう少し本格的に議論すべきではないかと思っています。それは現在イラクに対する軍事攻撃が始まるかもしれないという情勢の中で、世界の中にはWTOに加盟もしていない、あるいは現実にはもっと厳しい状態で経済的な制裁の対象になっている国もある。それから地域的にはボイコットを繰り返しているところもあるという現実に目を向けるべきです。またそうしたところがテロの温床となっている面があるわけです。

 中東について言いますと、そもそも何らかのかたちでボイコットあるいは経済制裁の対象になっている、経済的に見て大きな国があります。イスラエル、イラク、イラン、リビア、この4つはWTOどころか経済制裁やボイコットの対象になっているわけです。ですから、国内経済がどうしても歪んでしまう。そうした歪みを持ったままですので財政は赤字ということになりますし、それから職場を増やすことにも成功していない。そういう意味ではどうしても破綻国家という性格を持たざるを得ない。それでもなおかつもっている理由は、たまたま油があったり、あるいは援助が特定のルートから入ってきたり、そういうことにしか過ぎないということになります。

 アラブリーグは22カ国ありますが、そのおよそ半ばはWTOのメンバーではありません。アルジェリア、レバノン、サウジアラビア、シリア、こうした国々はアラブリーグの中では人口の多い、そして経済規模の大きい国なのですが、WTOのメンバーではありません。それからアラブリーグではありませんが、イランはこの枠の外にあります。中央アジアでもWTOのメンバーになっているのはキルギスタンだけであります。このように考えてみますと、われわれはそもそもWTOを通じて自由な貿易、投資によって世界秩序をつくろうとしているわけですが、実際にはそれには成功していないということになるわけです。



WTO非加盟国での投資

 WTOの枠外に入ってしまったところでは、一体それでは何が起きているのかということになりますと、これは極めて高い関税率が現実に支配しています。輸入は極めて難しい。ですから闇で入ってくることはあっても、関税を支払ってまではなかなか輸入が進まない。そのことは国内の経済構造に歪みをもたらす原因になっています。それではどのくらい関税率が高いのかと考えてみます。中東の国々では大変高い関税率の国が多くあります。サウジアラビア、シリア、エジプトなどです。エジプトはWTOに加盟はしていますが、しかしそれでも関税率は20%以上だと考えていいのではないでしょうか。そういう意味では、高い関税率によって一見国内の投資が保護されているようではありますが、国内経済不活性化のゆえに職場が増えず、また国内的にもしたがって追加投資が出にくい、そういう状況が生まれているわけです。

 中東諸国が大きな流れの中で外枠に入ってしまったという、世界の流れの外に入ってしまったという問題があります。中東諸国にはいろいろありますが、モロッコからインドネシアまでのイスラム圏というかたちでとってみますと、このイスラム圏の人口は13億人くらいに相当するようです。人口は13億人ありますから、中国がそのままというのがモロッコからインドネシアまでのイスラム国家です。ここにどのくらい海外からの直接投資がきているのかというと、130億ドル程度というのが2001年の統計から明らかです。130億ドルぐらいの年間の海外からの直接投資というのは、どこの国に相当するのかと考えてみますと、日本には実は130億ドル入ってきていません。大体ここのところは70億ドル程度です。日本にはこれだけ入っていませんけれども、例えばスウェーデンですと、人口は1,000万人以下ですけれども、海外からの直接投資が120〜130億ドルは入ってきています。ということは、人口1,000万足らずのスウェーデンに入ってくる直接投資と人口13億人にも上ろうとするイスラム国家に対する海外からの直接投資はほぼ同じ程度だということになるわけです。すなわち、所得を生み出す仕組みが十分完備していないということになるわけです。



WTOの枠組みを越えた問題

 このように考えてみますと、テロの温床というかたちでイスラム国家の問題がやはりある。しかもWTOという枠組みをわれわれは議論して、そこでは農産品の問題を中心にして、あるいは途上国に対しては知的所有権の貿易的側面というかたちで、例えばエイズ治療薬をどのようなかたちで安く手に入るようにすればいいのか、こうした議論をやるわけです。しかし、そもそもメンバーに入っていない人達に、どのようにメンバーとしての意味を受け止めてもらうのかということが本当は重要だということになります。

 2001年11月のドーハ、つまり9月11日の同時多発テロのちょうど2ヵ月後にあたって、アルカイーダに対する攻撃がまさに動こうとしているときに、カタールのドーハでの会議を開くか開かないかという議論をやったくらいですから、ドーハは極めて象徴的な場所だったわけです。しかしWTOのメンバーにそもそも入ろうとしない、あるいは入れてもらえない、あるいはそうしたことに直接的なプラスを見出そうとするリーダーがいないという地域の問題をどう考えるのかというのはもっと重いように思います。

 会議は金・土・日と開かれるようですが、この非公式閣僚会議の場でおそらくこの問題が議論されることはないだろうと思います。しかし、本当のところは、今世界のテーマとなっていますイラクの問題あるいは北朝鮮の問題は、世界共通の枠組みの外側に、いわばこぼれ落ちたようなかたちで存在しているところが大量破壊兵器の生産という極めて歪な政策手段に依存しようとしている、という世界の問題を映し出しているわけです。もちろん、非公式会議に集まる人々は技術的なことも含めて新しいドーハで合意された新ラウンドをどう進めるのかについて、一つひとつ取りまとめを急ぐべきでありましょうし、9月のカンクンでの閣僚会議では成果が出ることを世界の人々はもちろん望んでいるわけです。

 ただ、そこには枠の外の問題をどこでどのように取り上げることができるのか、あるいはそこに対しての接近方法を、われわれはどのように持ち得ているのかというテーマがあるように思います。デジタルマップというかたちで世界の経済情勢を一見してわかる仕組みをつくることは極めて重要だとわれわれは思っているわけですが、このWTOのメンバーに入っていないところ、あるいはボイコットや制裁の対象になっているところ、そこにどれだけの人がいて、そういうところに対してはこの10年あるいは20年、どの程度の投資が行われているのかという絵姿をつくってみますと、情勢は大変厳しいということがわかるわけです。



国際経済秩序を考える視点

 こうした世界の枠の外になってしまいますと、一体どういうことが起きるのかということなんですが、一人あたりの所得も例えばドル建てで見てみますと減っています。一人あたりGDPを計算してみますと、アラブ世界では1980年には一人あたり2,300ドル程度であったものが、これが2001年には1,650ドル程度にまで低下しています。およそ25%のマイナスが起きているわけです。ですからWTOのメンバーになろうとする人達があまりいないところでは、地域的な統合とか地域的な協力ということにも当然ながら不熱心ということになります。そうしたところでは、現実に一人あたりGDPは20年間に渡って低下している。20年間で25%低下しているということを考えてみますと、極めて意味が重いと言わざるを得ません。そしてこうした地域では、この20年間に人口は倍にまではなっていませんが、倍近くまで増えているわけです。必ずしも将来に対して展望が持てない、しかし子供の数は増える。そして自分たちは世界のシステムから差別化されている。あるいは隔離され、疎外されている。こうした人達が極めてたくさん存在しています。これはただ単に宗教の問題ではないということが明らかになるわけです。社会的な条件がその背景にある。その社会的な条件と宗教との関係がどういうめぐり合わせになっているのかについては個々に具体的に調べる必要があるわけですが、こうした厳しい情勢の中で問題が起きているわけです。

 ただし、北朝鮮の場合においては、宗教と経済体制との間になにか因果関係があるとは言えないわけです。東アジアにおけるこの北朝鮮の存在は、そうした問題とはまた違うところで議論が進められなければならない問題だというふうに思います。しかし、イラクをはじめとした国々と同様、経済制裁の対象になったり、あるいは孤立化をすすめている場合に国内経済建設がうまくいかないという、もう他のところで起きているのと同じことが北朝鮮でも起きているわけですから、北朝鮮をどのように位置付けるのかについては十分な議論が必要になろうと思います。

 盧武鉉大統領を選んだ韓国では、この北朝鮮の問題をできるだけ同じ目線で同じ民族の問題としてとり上げようという人達が若い人々を中心にして増えていると言われています。このこと自体は問題を同一レベルで考えようという意味で極めて歓迎すべきことです。ただし核弾頭が次々と生産されるかもしれないという状況を考えてみますと、中長期的に見れば経済的な発展は極めて重要ですが、とりあえずは核兵器ということになりますと、危機管理の問題が正面に出てくることになります。盧武鉉新政権の発足はもう間近ですけれども、この難しい課題に正面から、最初から取り組まざるを得ないというのが現在の韓国の情勢だと思います。しかし、日本の場合はこの北朝鮮の問題とイラクの問題と両方を同時に考える視点というものを持つべきではないかというふうに思っています。

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