企業物価指数の動向
今日はインフレーション・ターゲッティングの問題、そして本当に日本においてデフレは加速しているのか、という問題を改めてとり上げてみたいと思います。1月の17日に日本銀行が卸売物価指数を変更しました。これまでの卸売物価指数に対して、今回から発表されるのは企業物価という指数になります。何が違うかといいますと、これまで卸売物価の場合には、代表的な商品を決めて通常時の価格を調べるというかたちをとってきたわけですが、実際の経済では大幅な値引きが増えてきているわけです。そういう意味で、値引き販売価格等を十分に入れ込んだ「平均価格」というものをとりまして、これで指数をつくったということになります。そういう意味では、生産者の実態といいましょうか、体温に近いものをどのように価格指数として拾い上げることができるか、そうした検討の後に、今回、企業物価指数というものを発表したわけです。
当然このデータは遡っても改訂されていますので、どういう変化があるのか非常に明確です。数年前と今日とを比べてみまして、この従来の卸売物価指数と企業物価指数の違いは2000年のITバブルを前にした値上がりとその後のバブル崩壊、ITバブルの崩壊以降の急速な値下がり、この局面だけで変化が非常に大きいわけです。これは日本の工業生産に占める電気機器の比重が大きくなったということがあります。しかもこの電気機器、パソコンとか半導体とか、こういう分野での価格の変動が極めて激しかったことから、この結果として企業物価指数についても、いわゆるITを大幅に盛り込むことになったわけです。
メディアでは、結局のところ卸売物価から企業物価指数に改訂されることによってデフレがより鮮明になった、というコメントをもっぱら取り上げています。確かに指数の対前年同月比で見てみますと、今まで発表されていました卸売物価指数よりも企業物価指数のほうが対前年比の値下がりがバブル崩壊以降大きいわけです。ですから、デフレの実態がより色濃く反映しているという言い方も決して誤りではありません。
しかし、もっと重要なことは、この企業物価指数が企業のいわば体温というものを拾い上げたことによって、値下がりのときは確かに大きな値下がりをするわけですが、それが対前年同月比で見てマイナス幅が小さくなるという意味における回復、対前年同月比のデータで見て、下げきってから上がるという、この上がり方から言いますと、かなり高いかたちで出ています。いうならば景気の繁閑とでもいうものを色濃く反映していますから、下がるときには大幅に下がるし、回復するときにはかなり早く対前年同月比でマイナス幅が小さくなっていくことを示しているわけです。
この企業物価指数、1300系列近くあるわけですが、これをものすごく値下がりしているものから順番をつけます。一番値下がりしているものから番号を付けまして、10%点をとる、20%点もとる、30%点もとる、というかたちをとってみます。この間の物価のいわゆる下落といわれるものの実態を、企業物価指数の内訳というかたちでとってみますと、昨年の秋以降はかなり上昇しているものもあることがわかります。概ね 3 割が対前年同月比でプラスになるというのが去年の秋以降明確ですし、この 3 割のものについていえば、値上がり率が対前年同月比で上がってきているという特徴があります。そして、対前年同月でほぼゼロというのが10%あります。残りの60%は対前年同月比でマイナスが依然として続いているわけですが、このマイナス幅、10%線、20%線、30%線、どれをとりましてもマイナス幅は小さくなってきています。これから見て取れることは、3 : 1 : 6 というかたち、企業がつくっています製品の企業物価指数のうち、対前年比値上がりが 3 割、前年並みが 1 割、そして依然として残念ながら対前年比でマイナスが 6 割というかたちになっていることで、企業にとって収益を出すことが非常に厳しいということについては変わりがないわけです。
景気変動の流れ
しかし、対前年同月比で情勢は好転しつつあるということが極めて重要なのではないでしょうか。それからいきますと、デフレの実態を囃しているというメディアのコメントは誤りではありません。しかし、もう少し詳細に見るならば、景気変動の流れを見る限り、昨年の秋以降はかなりの程度好転してきている、問題はこれが持続するかどうかだと、こういうコメントが最も景気実態にそぐうものではないかと思います。インフレーション・ターゲッティングという議論は、現在の物価情勢が累積的不均衡を遂げている、どんどんマイナスの幅が大きくなっているという、そういう形で受け止められる可能性が非常に強いわけです。しかし現実はそうではなくて、景気のサイクルに基づいて、昨年は総体としていえば改善の方向にあったということになるわけです。
この情勢の中で、 3 月危機はあるのかというテーマがまたしてもこの 1 月から 2 月にかけて経済メディアでは登場することになります。もちろん先行きについては楽観を許されないというのが公平なもののいい方だと思いますが、私はいわゆる3月危機という、破綻が相次ぐというイメージでこの 1- 3 月期をとらえることは誤りではないかと思っています。
景気のサイクルからいきますと、とにもかくにも上昇のテンポがまだ続く、持続している。もちろんアメリカをはじめとして世界の情勢は必ずしも楽観は許されません。そしてイラク戦争がもし勃発したら、というので企業はかなり先行きを見極めるのに慎重です。アメリカ経済についていうならば、消費から企業の設備投資へ、という主役のバトン・タッチにこれまでのところ成功していません。そういう意味では、決して楽観は許されないんですが、しかし日本の景気のサイクルからいくと、昨年は次第に好転を続けていたということが現実なわけです。
もちろん銀行が保有している不良債権の問題について、不良債権処理を急いだときに何が起きるかというテーマがもう一つあることは事実です。ただ、昨今の情勢を見ますと、メガバンクを中心として銀行の自己資本の充実、増資というかたちとして、優先株をいろいろなかたちで投資家に持ってもらうという努力が相当程度テンポを上げてきています。こうしたかたちで資本の増強が可能だということになりますと、不良債権処理を果敢にやっても大丈夫だと。もちろん中長期的に言いますと、自己資本の部分が増えるということは、本当に配当の余力はあるのかという問題がありますし、それから自己資本に対する収益率となりますと、大きくなった資本に対してより多くの収益を計上しませんと、自己資本、利益率という指標でいえば、むしろ情勢は悪化するケースも考えられるわけですから、中長期的に銀行の収益改善努力、もっと言えばビジネスモデルの構築というものが成功するかどうかはまだ誰にも分からないという段階です。しかし、1- 3 月期あたりで、銀行の国有化、あるいは極端な場合には破綻というようなケースを通じて、日本経済の背骨が折れてしまうというような可能性は大きく減少してきています。
そういう意味では 3 月危機と言われているものは、どうやら封じ込めに成功しつつある。海外の投資家はこのことを上振れのリスクというふうに呼びはじめています。今まで、ひょっとして日本では大きな銀行が軒並みといっていいほど国有化されてしまうのではないか、そうした情勢の中において日本経済の展望をすることが非常に難しくなっている、日本株はウェイトを下げたほうが投資家にとって、最終投資家にとって望ましい対応だ、そうした考え方が非常に強かったわけです。そういう意味では日本株の組入れ比率を下げてきたわけですが。ここへきてメガバンクを中心として自己資本の充実を市場を通じてどうやら実現できるとなりますと、大きく下振れする可能性は小さくなるわけです。そして今度は日本株を持っていることの恐怖から持たざることの恐れ、もう少し買増ししないと値上がりしてからでは買増しにコストがかかりすぎると、そういう感じも若干ここのところ出てきています。来週以降の情勢を展望したい、もう少し注目してみたいと思います。ですが、私はこうした流れ、すなわち日本経済全体に対する信頼は、一時の、先行き何が起きるか分からないという、投資家の一部にあった猜疑心からどうやら最悪の事態は避けられそうだというふうに変わってきていることが、株式市場の動きから読み取れるような気がします。
そして今日申し上げました企業物価指数で見ましても、景気情勢はサイクル上は好転の流れを依然として持っている。多少上昇に足踏み感があることは事実ですが、昨年の12月末のこの企業物価指数の流れからいきますと、どうやらそうした景気サイクルはいまだ日本において確認される。先行き稲穂の先が垂れるように、この上昇が足踏みから後退へという可能性ははもちろんあるわけですが、現在のところ足許の船板を踏み破るような、そうした累積的な不均衡が起きているわけではないということが、日本銀行が発表した企業物価指数からも分かるように思います。経済メディアのコメントもいろいろありますけれども、もう少し詳細に、例えば対前年同月比の推移で見て、大きく回復のうねりの中にあったということも、昨年12月までのデータにおいて確認することも重要ではないでしょうか。
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